建築の施工


瀧口信二

前回の「建築工事の発注」は建築生産における工事発注の業務の内容とフローについて記述し、可部駅ビル(仮想)をモデルにケーススタディをしてみました。
今回は、請負契約をしてから工事を施工する段階について、特に施工者の側に立って記述したいと思います。

建築施工の内容

工事を受注して着工するまでに約1月かかると言われています。設計図書を十分に理解し、図面に描かれているものを現場で形にするのが施工者の役割です。まず、施工の業務を5W1Hに当てはめることにより、業務内容を紐解いてみます。

  • Who(誰が)
  • 施工者 発注者から建築工事を請負うのは一般的に総合ゼネコン(元請)で、施工全般の責任を負っています。現場に張り付いた元請社員も施工の一部を担いますが、実際の工事は各種専門工事業の職人が作業をします。
    元請が総合調整のうえ段取りをし、下請の専門工事業者が現場に入って担当部分の工事を施工します。元請の現場スタッフは工事の規模により違いますが、経理担当・施工管理担当・施工図担当等が配置されます。現場を代表する者として現場代理人がおり、建設業法で定められた元請としての外注総額3.000万円(建築一式工事の場合は4.500万円)以上になると監理技術者を置かなければなりません。
    施工体制 施工の品質管理は下請の自主施工管理を基本として、元請の施工管理、発注者側の工事監理、発注者の検査等重層構造になっていますが、今ひとつ役割分担・責任区分が明確ではありません。相互の利益が相反している場合は、信頼できる関係を築くのが困難となります。共通の利益目標を掲げ実行できるか否かが、現場代理人の腕の見せ所です。
    現場での物作りだけでなく、建築材料・資材・機器等は工場で製造されます。工場でのメーカーの品質管理も建物の品質を確保するための重要な要素となります。建築は多種多様な人・物・金を織り込んで作られる総合的な生産品です。

  • Why(なぜ)
  • なぜと言われても困りますが、発注者に対して適正に工事を完成させて引き渡すという請負契約を結んでいるからです。決められた工期までに完成させることが義務付けられています。それを守らなければ、対価としての請負代金を受け取ることができません。
    ただ報酬を得るためだけではありません。発注者がその建物を活用することにより社会の役に立ち、発注者の求めに応じて建物を建設することは、人類の繁栄のための基盤を整備することになるからです。私財が投じられたものであっても、公共財としての価値を生むものを生産しているという自覚を建設業に関わる人々は持たなければなりません。

  • When(いつ)
  • これも締結した工事請負契約書の中に決められており、契約した翌日から工期までの間に施工を終わらせなければなりません。工期を守らなければ、ペナルティ(違約金等)を課せられます。
    但し、工期内の施工の段取り・順番・施工の方法等は元請ゼネコンの裁量に任されています。期限の間際になってドタバタと施工するより、事前の工程計画通り余裕を持って施工する方が、品質上も安全上も優れていることは論を待ちません。

  • Where(どこで)
  • 建築生産の大半は建設の現場で作業が行われます。雨や風等の天候の影響を受けやすいので、作業のできない日をあらかじめ計算に入れておきます。また、近隣に住居等がある場合は、騒音・振動等のクレームが発生しやすいので、事前に十分な根回しをすると共に作業時間等の要望を聞いておくことが大事です。
    最近では、現場での作業を少なくするため、プレハブ化が進められています。極力、工場で部品を製造して、現場で組立てる工法を採用したり、部品を組立てる建設ロボットを開発したりしています。この傾向は今後とも進歩していくものと思います。

  • What(何を)
  • 設計 何を施工するかといえば、それは設計図書に描かれたものを現場において具体の形にしていきます。形は平面図・立面図・断面図・詳細図等の図面と使用する材料や要求する性能等を記載した仕様書等で表現されています。
    設計者から設計主旨の説明を受け、設計図書の意図を汲み取り、図面の不明な部分は確認のうえ、設計者との意思の疎通を十分に図ります。正しく設計図書を理解したうえで、各専門職種の職人の施工を管理します。

  • How(どのように)
  • 施工の品質は、どの材料を使用して、どのように作っていくかで決まります。作り込んでいく手順を「仕様」といい、設計図書の中の特記仕様書等に定められています。
    施工の仕様は、設計図書に指定されているものは図面通りにしなければならないが、それ以外は施工者の裁量に委ねられています。
    現場で施工する前に、施工計画書・施工図・製作図等を作成し、段取りや細部の納まり等の問題点を解決します。発注者側の工事監理者の承認を得たうえで、職人の作業に着手します。
    企画 各専門職種の工程毎に検査をクリアさせ、次の工程に進みます。現実には現場が錯綜して、十分なチェックができなかったり、手直し・手戻りで予定の工事がストップしたり、やりくりでテンヤワンヤの現場も少なくありません。
    生産環境の整った工場での大量生産と違って、現場での一品生産を多くの人の手で作り上げていく建築工事の品質を管理することは至難の技です。良き発注者・良き設計者・良き施工者の3拍子が揃って初めて良き建物が出来上がります。

建築施工のフロー

  1. 設計図書の把握
  2. 設計者 施工者はただ図面通り作れば良いわけではありません。設計者の意図を汲み取って施工に反映しなければ、良い建物は作れません。
    最初の総合打合せで発注者・設計者・工事監理者・元請ゼネコン各社(建築・電気・機械等のゼネコン)が一堂に会し、発注者並びに設計者から建設の目的及び設計の主旨(設計の考え方・力点を置いたポイント等)を聞き、質疑応答をします。
    建設関係者全員が共通の目標を持って取組める現場の環境を整備することが第一です。設計の内容を理解し、曖昧な点は明確にし、設計者との意思疎通を図ります。建築ゼネコンは他のゼネコンの足並みを揃えながら、総合的に建設現場を運営することが求められます。

  3. 全体工程計画の作成
  4. 類似の構造・規模の建物の標準的な工程表を参考に当該工事の工期に当てはめ、全体の工程計画を組みます。
    工期が厳しい場合は、短縮可能な工事の施工をチェックし、クリティカルパスを検討することにより工期の短縮を図ります。
    工事の工程だけでなく、現場の行事・各種検査等のスケジュール・工場製作物等の発注時期等、工程管理上重要なポイントを明記しておきます。

  5. 総合仮設計画の作成
  6. 工事の期間中、周辺の住民や現場の人達の安全を確保し、円滑に作業ができる現場の環境を整える必要があります。多くは契約条件として指定された仮設となっています。

    • 仮囲い
    • ・建設敷地とそれに接する公道や隣地の境界には仕切りを設けます。安全対策上、関係者以外は立ち入れないようにします。
      ・仮囲いの材料や高さは周辺の条件を考慮のうえ決定します。公道等の人が往来する側の仮囲いには建築主や建築概要を表示した看板等を掲げます。また、仮囲いにペインティングを施したり花壇を置いたり、美観上の配慮をします。
      ・車の出入り口部にゲートを設置します。人通りが多く車の出入りが頻繁な場合は、ガードマンを張り付けます。
      ・最近では、内部の作業内容が窺えるように一部をシースルーの材料にしている現場をよく見かけます。遮蔽された中で作業するのではなく、市民の目にさらすことにより、少しでも建設に対する理解を得ようという新しい試みです。

    • 現場事務所等
    • ・現場に詰める人数に応じた規模の仮設事務所を設置します。元請社員の事務や休憩スペース、工事監理者用の部屋、打合せ用の会議室等が入ります。人が常駐している場合は、仮設便所や洗面所も併設します。一般的には鉄骨造のプレハブ建物をリースします。
      ・敷地の事情により元請ゼネコン毎に個別の場合と共同で設置する場合があります。街中での工事のように敷地が狭い場合は、近くの貸しビルを賃貸することもあります。
      ・大規模工事の場合は作業する人が多いので、食堂・休憩所等の福利厚生施設を設置します。その他、資材置き場用の倉庫・小屋等を設置します。

    • 資材・重機等の搬出入ルートの確保等
    • ・地下工事等がある場合は、掘削土の搬出方法や山留め工法等の検討がなされ、仮設計画の良し悪しで施工効率に大きな差が生じます。
      ・建物に杭がある場合は、重量のある杭打ち機を搬入するために地盤改良をしたり、復鋼板を敷いて補強する必要があります。
      ・高層の鉄骨造の場合は、鉄骨の柱・梁を取付けるためにタワークレーン等の揚重機を設置します。簡易な場合は、必要の都度トラッククレーン等の可動式で済ませます。
      ・鉄筋コンクリート造の場合は、鉄筋・型枠を組立てるために外部足場を組んだり、コンクリートを打ち込むためのコンクリート・ポンプ車やミキサー車の配置等の検討が必要です。
      ・工事全体の流れをよく把握して、無駄・無理のない仮設計画を立てることが求められます。

  7. 下請業者(専門工事業者)・材料メーカー等の決定
  8. 大手ゼネコンの場合は傘下の下請業者のグループを持ち、手の空いている業者から選びます。1社とネゴで決める場合と数社の候補から見積りを取って決める場合があります。傘下ではなく、日常的な付合いのある協力業者の場合も、同様です。景気動向の影響を受けやすく、労働力の需要と供給のバランスで下請金額が決まります。
    材料名やメーカー名等は設計図書に特記されている場合が多いので、一般的にはその中の数社から見積りを取って決定します。ここでも日頃の付合いが尊重され、現場所長の裁量で決められることもあるし、逆にコスト削減のために本社の購買部で一括購入されるケースもあります。景気の動向や材料・メーカー等の種別によって千差万別です。

  9. 施工図及び施工計画書等の作成
  10. 実施設計 工事に着手する前に施工図で現場の納まり等を確認し、施工計画書で段取り等を調整します。工事監理者と施工者の意思の疎通を図る大事な手段です。

    • 施工図等
    • ・設計図書から現場で施工するための図面を起こしたものが施工図です。
      ・躯体・仕上げ等の施工図は元請社員が現場で作図する場合が多かったが、最近では協力設計事務所に下請で流すケースが増えています。CADが浸透し、パソコンによる情報伝達が発達した昨今においては、現場外で作図される傾向にあります。
      ・金属製建具等のように工場生産されるものについては、メーカーサイドで製作図及び製作要領書を作成し、工事監理者の承認を得て製作に入ります。

    • 施工計画書等
    • ・設計図書から現場で施工するための手順(いつ頃から、何を、どのように作るか)を示したものが施工計画書です。
      ・基本的には元請社員が専門工事毎に施工計画書を作成しますが、最近の傾向としては、専門工事業者が作成する方向に推移しています。専門工事業者の自主施工管理の浸透が期待されます。
      ・施工計画書等は雛形があり、部分的に焼き直すだけの場合が多いが、よく内容を理解し現場に合致した施工計画書を作成しなければ意味がありません。

  11. 施工及び施工管理と工事監理
  12. 施工 現場では職人により施工され、それを元請の立場で管理し、さらに発注者の側に立って監理しています。管理と監理は立場による見方の違いがありますが、安全に良い建物を工期内に建てるという大きな目標は同じです。

    • 専門職種の職人による施工
    • ・上記の施工図と施工計画書に基づいて、各工事毎に専門職種の職人が現場で作業します。職長が職人グループを取りまとめ、自主的に自分達のやったことをチェックし、元請にその結果を報告します。

    • 元請ゼネコンによる施工管理
    • ・元請は職人が現場に入れる環境を整え、スムースに作業ができるように見守り、終了すると施工図・施工計画書通りにできているか元請の立場でチェックします。その結果を工事監理者に報告します。
      ・専門職種の職長と元請のチェックは、自分のエリアだけを見るか全体の中の一工程を見るかの違いです。個々の工程において徹底した自主施工管理が理想ですが、まだそこまで到達していないので、二重のチェックが必要となります。

    • 発注者側に立った工事監理
    • ・職人の自主施工管理、元請の施工管理の上に、さらに発注者側の工事監理があります。工事規模が大きい場合は常駐しますが、一般的には巡回監理です。元請と日程調整のうえ、節目節目に品質上の重要なポイントのみをチェックします。
      ・工事に立会えない施工部位は、元請の責任で適正に施工している状況の写真を証拠として残します。工事監理は発注者の利益を守る視点で大局的にチェックを行うことが求められます。3者のチェックが有機的に機能するのが理想ですが、なかなかそうはいきません。各現場において信頼関係を築くための工夫が求められます。
      ・設計監理は設計者の側に立った監理で工事監理とは微妙に差があります。工事の品質管理より設計のフォローに重きが置かれる傾向にあり、発注者と設計者がイクオールの関係ではないことを意味しています。最近は設計者とは別人格に工事監理を委託する動きが出ています。

  13. 発注者及び建築主事等の検査
  14. 検査 請負代金を支払う時には発注者が検査を行い、建築基準法に基づく検査は建築主事等による検査を受けなければなりません。

    • 発注者の検査
    • ・工事監理者が発注者の代理として施工の節目毎に立会い検査をしていますが、金の支払いを伴う中間検査や完成検査は発注者が検査することになっています。勿論、発注者に技術的な判断能力がない場合は、工事監理者が代行しますが、形としては発注者が検査したことになります。
      ・完成検査に合格すれば、元請ゼネコンは発注者に建物を引渡し、発注者は請負代金を支払います。なお、検査の結果、手直し項目等があれば、手直しを約束する念書を交換し、後日手直し工事の完了を確認します。

    • 建築主事等の検査
    • ・建築主は工事の着工前に、地方自治体の建築主事等に建築確認申請書を提出し、建築基準法等の法律に適合しているか否かの審査を受け、確認済証の交付を受けなければなりません。
      ・工事途中でも建物の用途・規模により、建築主事等の中間検査が義務付けられ、中間検査合格証の交付を受けなければ、次の工程に進めないことになっています。
      ・工事が完了した段階では、建築確認申請通り施工されているか否か確認のために、建築主事等の完了検査が行われます。検査に合格して検査済証が交付されなければ、建物を使用することができません。発注者の完成検査前に建築主事等の検査をクリアしておくことが理想です。
      ・その他、消防法に基づく消防検査、厨房等があれば保健所の検査等があります。

ケース・スタディ

前回の「建築工事の発注」でケース・スタディした可部駅ビル(仮想)では、地元の中堅ゼネコンが設備工事を含む建築一式工事を受注したと仮定して、元請の施工業務を想像してみます。
なお、私はゼネコンでの施工経験がないので、全くのフィクションです。
工事規模・請負金額等から元請の担当技術者は一人とし、現場代理人が全てを担うことになります。40歳代の油の乗り切ったオールラウンドの技術者が現場に張り付くことになりました。現場代理人の補助としてアルバイトの女性が一人付きます。工事監理には設計を担当した事務所より派遣され、月2回の巡回監理です。

    配置図
    可部駅ビル配置図
    可部駅ビル
    可部駅ビル機能図
    パース
    可部駅ビル・パース
    会議
    総合打合せ
    全体工程表
    全体工程表
    仮設計画図
    仮設計画図
  1. 工事概要
  2. 1.工事場所:可部駅構内
    2.建物規模:鉄骨造2階建て、延べ床面積600?
    3.工事請負金額:7.000万円(内訳:建築6.000万、電気・機械共に500万)
    4.工期:2009年2月初旬〜7月末
    5.外部仕上げ:外壁は化粧用ALC版(横使い)、屋根は塩ビ鋼板

  3. 総合打合せ
  4. 契約後、できるだけ早い時期に関係者全員が集まって顔合わせをすると共に、建設の目的及び設計の主旨を説明する場を設ける。
    1.発注者からは工期厳守と安全管理のお願い。
    2.設計者からはプレハブ化に努めているので、よいアイデアがあれば提案して欲しい旨の要請あり。
    3.ゼネコンからは全体工程計画(素案)の説明と施工条件の確認、設計内容の質問等。
    4.「無事故・無災害で、ユニット(複合化)工法の採用による高品質と工期短縮」を現場の共通目標にすることを確認。
    5.月1回の定例総合打合せを決定する。

  5. 全体工程計画
  6. 1.工期の2009年7月末に納まるように逆算して全体の工程を組む。
    2.構造が鉄骨で内外部の仕上は乾式工法が多いので、実質5ヶ月で完成可能。最後の1ヶ月は建築主事検査・消防検査等の検査期間に当てる。
    3.鉄骨・サッシュ等の製作に時間のかかるものは早めに注文する。

  7. 総合仮設計画
  8. 1.仮囲い等・・・土地所有者のJRと調整して、できるだけ広めの建設用地を確保し、敷地境界にH=2mの鋼板製の仮囲いを設置。バス乗り場側の仮囲いは風景画のシールを貼る。北側の仮囲いにゲートを設置。
    2.現場事務所等・・・ゲート近くは車両の出入りや資材置き場スペースとなるので、奥まったところに現場事務所(S造2階建・延50?程度)を構える。元請社員は現場代理人+アルバイト女性1名、巡回の工事監理者1名の現場体制。
    3.資材・重機等の搬出入ルート等・・・原則、資材等は人の出入りの少ない早朝又は夜間に搬入する。

  9. 下請業者・材料メーカー等の決定
  10. 1.協力業者・・・電気・ガス・給排水・空調等の工事が含まれているので、付合いのある者の中から早めに電気・機械の設備業者を決めておく。
    2.下請業者・・・基礎工事・鉄骨建て方等のとび・土工、型枠大工等の職人の手配は、子飼いの専門工事業者の中から選定する。
    3.主要材料・メーカー等・・・鉄骨、サッシュ、ALC版、金属屋根材等は設計図書に明記されているメーカーの中から見積り徴集のうえ決定する。
    4.仕上材・その他・・・床タイル、内装タイル、塗装等は設計者の指示(仕上表・色彩計画表等)を受け、各部位毎に特定する。

  11. 施工図及び施工計画書の作成
  12. 1. 施工図・・・コンクリートの躯体工事は基礎工事しかないので、現場代理人が現場で製図板に向かって躯体図を書き上げる。仕上の納まり等も特殊なものは無く、設計図書で理解可能。鉄骨は鉄工所(ファブリケーター)の方で加工図を作成。
    2. 施工計画書・・・基礎工事・鉄骨工事・ALCパネル工事・屋根工事・建具工事・塗装工事・内装仕上工事・電気設備工事・機械設備工事等の施工計画書を用意する。
    3. その他・・・上記以外の工事もあるが、軽微なものは工事監理者と協議のうえ省略する。

  13. 施工及び施工管理と工事監理
  14. 1.施工・・・現場代理人は専門職種の職人に現場作業の注意事項・施工計画書のポイント等を説明し、職人は設計図書をよく理解したうえで施工する。
    2.施工管理・・・現場代理人は施工状況を管理し、工事写真として記録する。一工程の作業が完了すると、出来形の検査を行い、その結果を工事監理者に報告する。
    3.工事監理・・・工事監理者は現場を巡回した時、あらかじめ決めておいた工事監理項目を抜き取りで検査する。不合格の場合は、その工程を中止させて手直しさせる。

  15. 建築主事等の完了検査と発注者の完成検査及び引渡し
  16. 1.建築主事等の完了検査・・・厨房の工事が終わった段階で保険所の検査を受ける。電気・機械の設備工事が終わった段階で消防検査を受ける。全体の工事がほぼ終わった時点で、工事監理者は最終的な検査を行い、現場代理人は工事関係書類・工事写真等を整理する。その後、建築主事等の完了検査を受ける。
    2.発注者の完成検査及び引渡し・・・発注者は工事監理者のサポートを得ながら完成検査を行う。大きな問題が無ければ、合格として元請から発注者に建物(形式的に鍵)の引渡しを行う。小さな手直し箇所は後日手直し完了後、工事監理者が確認する。元請は請負代金の支払いを請求し、発注者が代金を支払って請負契約が完了する。

雑感

私は発注者の立場における工事監理を何度か経験したことがあります。現場の雰囲気は元請の現場代理人の管理能力に左右されます。技術的な知識のみでなく、人間的な魅力が現場のトップには求められます。

大手ゼネコンだから安心して施工が任せられるというものでもありません。ただ、何か問題が発生した時には、会社のバックアップ体制が整っているので、保険としての価値はあります。中小ゼネコンでも現場代理人がテキパキと処理できれば、現場はスムースにはかどります。現場は会社(ブランド)ではなく人材(能力)で勝負が決まります。

現場代理人がよくても、実際に施工する専門工事の職人の手(技)が悪ければ、質のよい建物は建ちません。レベルの高い職人を集めることができるか否かが、元請の実力の評価の指標の一つです。評価を高めるためにも適正な利益の上がる工事金額で請負わなければ、実力を発揮することができません。元請と専門工事業者(下請)が共に潤う環境が望まれます。

専門工事業者も職人の高齢化と若年労働者の建設業離れで、苦境に立たされています。更には、元請の安値受注のしわ寄せをもろに受けて、経営が成り立たなくなる下請業者が続出しています。悪質な業者が撤退するのは望ましいことですが、信頼されている業者の倒産は建設業の危機とも言えます。

設計者と施工者の関係も改善が求められています。施工者に設計のフォローをさせている風潮が見受けられました。特にアトリエ系の建築家にその傾向が強く、設計者と施工者の役割分担・責任区分が曖昧でした。設計者は設計図書の完成度を高め、施工者は図面通り適正に施工するという、良い意味での緊張感ある関係を築かなければなりません。

現在、耐震偽装問題を受けて、建築基準法や建築士法の改正が進んでいます。建築確認申請が厳しくなり、構造設計・設備設計の新資格が創設され、設計業務と工事監理業務の内容が明確にされました。法律や制度を変えたからといって、建築界が刷新されるとは思いませんが、一歩でも二歩でも前進することを期待します。


  (2009.2.15 記載)   
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