建物の解体・撤去


瀧口信二

前回の「建物の維持保全」は、建築生産における建物の維持保全の業務の内容とフローについて記述し、可部駅ビル(仮想)をモデルにケーススタディをしました。
今回は、建物のライフサイクルの最終段階である解体・撤去について記述したいと思います。

解体・撤去の内容

長年、建物を使用すると傷みが激しくなり、修繕・改修では追いつかなくなります。また、社会の進展に伴い建物が陳腐化し、機能不全に陥ると解体・撤去して、建替えのニーズが高まってきます。解体に至るまでの過程を5W1Hに当てはめ、解体・撤去の内容について紐解いてみます。

  • Who(誰が)
  • 発注者 長年使ってきた建物を解体するか否かの決定を下すのは、その建物の所有者(オーナー)です。諸般の状況を勘案して総合的な経営判断をしなければなりません。解体の意思決定は、現建物の価値と将来の建物の価値とのバランス、それに伴うコストのバランスを勘案してなされます。
    解体が決まれば、一般の工事と同様に発注作業が進められ、受注した業者が施工します。ゼネコンが受注して解体業者を下請にすることもあるし、元請として解体業者が受注する場合もあります。
    施工体制 解体とその後の新築が一本の工事の場合はゼネコンに発注し、分離する場合は解体専門の業者に発注するのが一般的です。
    但し、以前は解体業者のイメージが悪く、解体工事に伴う住民説明等の周辺地域との折衝に手馴れたゼネコンを選択するケースが多くありました。最近ではイメージも改善されてきているようですが、どちらにしても解体工事を行うのは解体専門の業者です。

  • Why(なぜ)
  • 解体する理由は簡単です。建物としてそこに存在する理由が希薄になり、役に立たなくなれば解体されます。形あるものは遅かれ早かれ無に帰するときがやってきます。
    その要因として物理的なものと社会的なものがあります。経年による劣化が進み、構造的に持たなくなれば、財産・生命の安全のためにも速やかに取り壊さなければなりません。
    建物として頑強であっても、居住性・機能性・生産性等が悪く、経済効率を向上させるために建替えることがあります。また新たな需要の建物を建てる際に、邪魔になって運悪く解体されるケースもあります。
    但し、最近では限りある地球の環境・資源を守るため、できるだけリフォームして建物の寿命を延長させようという機運が高まっています。

  • When(いつ)
  • 一般的には、耐用年数が近づけば、そろそろ建替えなければという気持ちになります。但し、耐用年数は個々の建物の状況によって異なるので、平均的なことしか言えません。
    使用上の使い勝手が悪かったり、クレームや故障の多い欠陥建物なら、早く壊されます。建物の寿命は設計の良否、施工の良否、維持管理の良否、環境の良否で決まります。4拍子揃った建物はみんなから愛され、天寿を全うすることができます。更に市民からの愛着が深ければ、歴史的建造物等に指定され、保存されることがあります。

  • Where(どこで)
  • 建物は土地の上に建っており、その建物を壊すのは現地でしかできません。
    これまでは人が機械を使って壊していましたが、将来的にはロボットを遠隔操作して壊す時代がやってきそうです。既に爆破による解体工法も進んでいます。

  • What(何を)
  • 解体に取り掛かる前に、家具や生活必需品等身の回りのものを整理して引越しをします。がらんどうになった空間に立ち、愛着のある仕上材等、再利用できるものがあれば、解体する前に取り外すよう業者に指示します。
    まず、電気・給排水等の切断、支障となる付属物の撤去等、事前の措置を済ませてから、本格的な解体工事に着手します。

  • How(どのように)
  • 解体工事は騒音・振動・粉塵等、近隣住民に多大な迷惑をかけることになるので、騒音・振動等の発生を抑制する解体工法・仮設計画を採用すると共に事前に十分な住民説明を行います。
    解体したものは建設リサイクル法に基づき、再利用できるもの・できないもの等の分別を行い、極力、再資源化に努めます。
    分別した建設廃棄物は種類に応じた中間処理施設・最終処分場等に搬送し、適正に処分しなければなりません。

解体・撤去工事のフロー

  1. 事前調査
  2. 設計者 新築時の設計図や竣工図が残っていれば、参考図として活用できますが、長年の間に改修や増改築をしているケースが多いので、解体工事着手前に現況の確認が必要です。
    設計図等が残っていない場合は、施工調査を行い、躯体図・仕上図等を作成し、建設資材等の見込量を算出します。敷地や周辺環境等の条件を勘案し、解体工法の選定・分別解体等の計画・工事の安全対策・周辺への環境対策等の検討を行います。
    発注者サイドで発注用の図面を作成し、解体費用を算出するのが基本ですが、図面も無く大よその坪単価で発注されるケースもあります。その場合は発注条件を明示して、その条件に合わない時には、設計変更ができるようにしておくことが必要です。

  3. 実施工程表の作成
  4. 発注条件として工期が決められているので、施工者は工期に合わせた実施工程表を作成します。
    あらかじめ近隣住民からの反対が予想される場合は、住民説明期間に余裕を持たせておきます。発注者と施工者が一体となって、誠意ある対応をしなければ、住民の理解を得ることは困難です。

  5. 施工計画書の作成
  6. 事前調査の結果を踏まえて、近隣住民や現場の安全を確保し、円滑に作業ができるように解体工事の施工計画を立案します。
    • 解体工法の選定
    • ・解体工法には手解体と機械解体と両者の併用があります。
      ・仕上材や再利用できるものは分別しながら手で解体し、構造躯体等はブレーカ等の重機を使って解体するのが一般的です。昔のように鉄球や機械を使って一気に壊すミンチ解体は建設リサイクル法等の規制によりできなくなりました。
      ・解体後の分別等の処理方法や近隣への騒音・振動等の影響を考慮して適切な解体工法を選定します。

    • 安全・環境対策
    • ・解体は危険と隣り合わせの工事なので、労働災害を起こさないように解体手順に沿った作業場所・集積場所・搬出経路等を確保します。
      ・また、騒音・振動・粉塵等が発生するので、防音パネルや散水等の対策を講じます。

    • 建設廃棄物等の搬出・処理計画
    • ・事前調査で把握した建設廃棄物の種類とその見込量に基づき、搬出車両の時期と台数を計画します。
      ・解体工事と並行して、廃棄物を搬出することが多いので、分別・集積・積載・搬出が手際よくできるように事前の段取りが重要です。

  7. 解体施工
  8. 上記の施工計画書に基づいて、解体業者が現場で作業します。

    • 事前処置・仮設工事
    • 施工 ・解体に着手する前に残存物(備品等)がないか確認します。家具・照明器具・空調機器等が残っていれば、発注者サイドの責任において処分することになります。
      ・給水・電気・ガス等のライフラインも事前に切断し、保護しておきます。
      ・解体により発生する騒音・粉塵対策や落下等の危険防止のため、足場・防音パネル・養生シート等の仮設を設置します。

    • 解体工事
    • ・解体工事は大きく非構造部材と構造部材に分けて解体します。サッシュ・間仕切り・内装仕上げ等や電気・機械の設備機器類等の非構造部材は人力により丁寧に解体・分別し、金属等の有価物は売却処分とします。
      ・鉄筋コンクリート造等の構造部材は大型ブレーカ・圧砕機・ダイヤモンドカッター等の重機を使って解体し、コンクリートガラと鉄筋類に分別します。

    • 分別・集積・積載・搬出
    • ・解体・撤去された廃棄物は種類ごとに分別し、混ざらないように集積します。積載する時も混合しないように種類ごとに単品で搬出するのが原則です。また、コンクリートガラ等は適当な大きさに砕いて積載効率を高めることも重要です。
      ・不法投棄や不正処理を防止するため、搬出された廃棄物が最後まで適正に処理されているか確認するマニュフェスト制度を遵守することが求められています。

  9. 建設廃棄物等の処理
  10. 建築物を解体すると様々な廃棄物が発生しますが、廃棄物処理法の規定による産業廃棄物のうち、建設廃棄物・特別管理産業廃棄物・アスベスト含有建材について記述します。
      廃棄物
    • 建設廃棄物の処理
    • ・産業廃棄物の約2割を建設業が排出し、建設工事に伴い副次的に排出されるアスファルト塊・コンクリート塊・木材・汚泥・混合廃棄物等を建設廃棄物といいます。
      ・建設廃棄物は、そのまま使用するリユースと原材料として利用するリサイクルの再資源化が可能なものが多く、建設リサイクル法で分別解体等の徹底と再資源化等の努力が義務付けられています。

    • 特別管理産業廃棄物の処理
    • ・産業廃棄物のうち、PCB含有機器類・廃油・廃酸・廃アルカリ等の毒性・感染性等の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずる恐れがあるものを特別管理産業廃棄物といいます。
      ・特別管理産業廃棄物は保管・収集運搬・中間処理・再生・最終処分(埋立等)を行う場合、廃棄物の飛散・流出等の防止措置を講じなければなりません。

    • アスベスト含有建材の除去
    • ・特別管理産業廃棄物のうち、廃石綿はより厳しい管理が必要とされる特定有害産業廃棄物に指定されています。
      ・アスベスト含有建材の除去時に飛散したアスベストを吸引すると、石綿肺・肺がん・悪性中皮腫等の健康障害を発症させます。
      ・アスベスト含有建材の除去・処理は、除去場所の隔離・アスベスト繊維の飛散防止・除去したアスベストの処理等について二重・三重の安全対策が必要となります。

ケース・スタディ

これまで建築生産のプロセスをケース・スタディしてきた可部駅ビル(仮想)も、周りの町の発展に伴って規模を大きくする計画が持ち上がり、築後20年で建替えることになったと仮定します。
新駅ビル新築と併せて解体工事をゼネコンに発注したと想定して、解体工事をスタディしてみます。

    配置図
    解体建物配置図
    可部駅ビル
    解体建物機能図
    パース
    解体建物パース
  1. 解体建物の概要
  2. 1.所在地:可部駅構内
    2.建物規模:鉄骨造2階建て、延べ床面積600?
    3.外部仕上げ:外壁は化粧用ALC版(横使い)、屋根は塩ビ鋼板
    4.建築経年:築後20年
    5. 工期:2ヶ月

  3. 施工計画書
  4. 1.敷地が駅構内でバス乗り場に面しているので、第三者被害の防止対策を重視する。
    2.構造が鉄骨で内外部の仕上は乾式工法が多いので、人手を主力に分別解体する。
    3.解体した鉄骨・サッシュ・金属屋根等の有価物は売却処分とし、ALC版・石膏ボード・コンクリートガラ等の廃材は品目ごとに分別・集積・搬出する。

  5. 解体施工
  6. 1.事前処置・仮設工事・・・家具等の残存物品が無いことを確認し、給水・電気・ガス等を止める。手解体が中心なので騒音・振動・粉塵は少ないが、建物周囲をシートで囲う。
    2.解体工事・・・建物に固定された設備機器類を撤去し、間仕切り・サッシュ・内装仕上げ等の建物内部の非構造部材を解体する。屋根材・外壁パネル・2階床パネル等を解体し、鉄骨の骨組みを解体する。最後に残った土間コンと基礎等を解体して更地にする。
    3.分別・集積・積載・搬出・・・手解体なので分別が容易であり、袋詰めや専用コンテナ等に集積する。種類ごとに単品で積載し、それぞれの処理場に搬出する。なお、搬出後の廃棄物のルートを確認し、不法投棄等の防止に努める。

  7. 建設廃棄物の処理
  8. 1.リユース・・・外壁・床用に使われていたALC版は新築の倉庫等の間仕切りに再利用する。コンクリートガラは粉砕し、骨材として新築工事に再利用。
    2.リサイクル・・・サッシュ・金属屋根材・鉄骨等は売却して再生利用。石膏ボード・木くず等は中間処理場で破砕して再生利用可。
    3.最終処分場・・・混合廃棄物等、中間処理場で処理できないものは廃棄物の種類・状態に応じた最終処分場に埋め立てる。

雑感

昔は大きな鉄球を振り子の原理でぶっつけてコンクリートの建物を壊していた風景をよく見かけたものです。杭打ち等もモンケンを打ち下ろして大きな音と振動をさせていました。経済発展の証のような元気印として周りもあまり気にしない風潮がありました。

騒音規制法が制定されたのは1968年で、高度経済成長期における工場等の騒音・ばい煙・廃液等の問題が表面化して公害に対する意識が高まっていきます。1973年の第一次オイルショック以降、省エネ・省資源が叫ばれ、高度経済成長から安定成長へ舵を切り始めます。

1997年にCOP3の京都議定書が議決され、地球温暖化を防ぐため温室効果ガスの削減に取組みます。この頃から地球環境問題がクローズ・アップされ、資源の節約と環境負荷の低減が叫ばれ、家庭ゴミの分別収集や産業廃棄物の適正処理が行われるようになりました。

建設廃棄物も2002年の建設リサイクル法の施行により、一定規模以上の解体工事・新築工事等においては現場で分別し、再資源化が義務付けられました。この法律により解体工事の場合、発注者は分別解体等の計画書を都道府県知事に事前に届出、元請業者は再資源化等の確認をし、発注者に書面で報告することになりました。また、不良業者の排除のため、解体工事業者の都道府県知事への登録制度が始まりました。

解体工事はダーティなイメージが付きまとっていましたが、随分とクリーンになってきました。分別解体を徹底し、再資源化を進めることにより循環型の社会になれば、もっと地球環境にやさしくなれるのではないでしょうか。6月5日は「環境の日」、6月は「環境月間」だそうです。まずは、身の回りのゴミを極力出さないようにすることから始めることにします。


  (2009.6.15 記載)   
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