広島市の旧市民球場跡地利用計画

上空写真
上空写真(市の報告書より)

2010年6月に旧広島市民球場の廃止条例案が市議会で可決され、年内にも取り壊しが始まる予定です。
紆余曲折の末、やっと動き出した球場跡地利用ですが、今でも球場解体への根強い反対があります。このまま収束していくのか否か見守りたいと思います。
市も6月に跡地利用計画のイメージ図を公表し、市民の理解を得ようとしましたが、反対意見の声を恐れてか、積極的な説明会等の開催を控えました。
これからでも遅くないので、市は説明責任を果たす義務があると思います。ここでは、市の提示した跡地利用計画に対して私なりの考察をします。

これまでの経緯

  • 以前の経緯は前回の 旧市民球場跡地利用計画(2)を参照
  • 2009年3月、市議会は2009年度予算案から跡地利用計画関連予算の主要部分を削除
  • 2009年10月、市議会は球場跡地利用計画の具体化検討費の一部を削除した修正案を可決
    概算工事費の算出と周辺地域の回遊性向上の検討費用は削除され、イメージ図の作成費用は認められる。
  • 2010年3月、市議会は球場の解体経費等の予算を承認したが、球場廃止条例案を否決
  • 2010年4月30日、「賑わいづくり研究会」が球場跡地活用策の提案書を市に提出
  • 2010年6月1日、市は球場跡地利用計画に基づくイメージ図と整備案の内容を公表
  • 2010年6月22日、市議会は球場廃止条例案を可決

市の手続き

市の計画案 2009年1月に広島市が球場跡地利用計画を決定し、3月に関連する予算を2009年度一般会計予算案として市議会に提出したが、反対する市民の声に押されて、跡地利用計画の具体的検討に要する予算が削除されました。
9月の市議会に再度補正予算として具体化検討費を提出したが、イメージ図作成費用のみ認められ、他の検討費用は削除されました。まず跡地利用のイメージを提示して、市民の理解を得るのが先決ではないかという判断です。
その後の市の対応を順を追って、検証したいと思います。
  • 2009年11月末、市は球場跡地利用計画の具体化検討業務を発注
  • 2007年の事業コンペで優秀賞となった池原建築設計事務所とNTT都市開発の2社に随意契約で発注し、それぞれ提案した「市民の森(折り鶴ホール)」と「市民広場(森のパビリオン)」を具体化させる。
    但し、予算が認められたイメージ図の作成は、概算工事費の算出や回遊性調査の裏打ちがなければ、無責任という理由で見送る。批判的な市議会に対する当て付けのような気がする。

  • 2010年2月、市に「賑わいづくり研究会」を設置
  • 球場解体後に整備する予定の広場の活用策を提案するため、イベントのアイデアや運営方法などを検討する。
    2010年4月に研究会からイベントのアイデア等をとりまとめた提案書が報告され、公表する。

  • 2010年3月、市は「折り鶴ホール」に折り鶴を常設展示しない案に修正
  • 池原建築設計事務所から修正の申し出があったということだが、市議会等の批判的な意見に押されて譲歩したのであろう。
    事業コンペで優秀賞に選ばれた根拠がなくなり、折り鶴ホールそのものの存在意味が消失する。

  • 2010年4月、市は跡地利用計画に基づくイメージ図作成と概算工事費算出業務を発注
  • 跡地利用計画の中心部「市民広場」を提案したNTT都市開発と随意契約し、イベント会場の折り鶴ホール(仮称)・飲食施設・一部保存する外野スタンド等を緑地広場に配置し、市民が憩う様子を描く。5月中に作成し、6月に市のHP等で公表する。
    なお、広場と周辺部の回遊性の調査業務は一般競争入札する。

市の整備イメージ

市の計画


















  • 市民広場
  • 大小さまざまなイベントが可能な芝生広場で、日常は市民のくつろぎの場を提供

  • 市民の森
  • 既存樹林を活かした明るい広場

  • 球場メモリアル
  • 旧球場の外野ライトスタンドの客席等の一部を保存し、休憩・展望スペースとして活用

  • 森のパビリオン[民間施設]
  • 公園利用者のためのレストランと観光案内施設を併設

  • 折り鶴ホール(仮称)[民間施設]
  • さまざまなイベントを実施するほか、ワークショップ活動等の拠点となるホール

  • 劇場
  • ミュージカル等が可能なホール等を検討予定。整備までは暫定的に広場として利用

  • 新たな運営手法・運営組織の検討
  • 運営組織 「賑わいづくり研究会」から「イベント特区」のように規制を緩和し、イベントを開催しやすい仕組みを整備することと、官民一体となった運営組織として右図「運営組織のイメージ図」が提案される。
    今後、研究会からの提案を踏まえ、より柔軟な管理運営を可能とする新たな運営手法と賑わいづくりの中核となる新たな運営組織の設置について検討する。

問題点及び私の提案

  • 問題点
  • ・今回の市の整備イメージは事業コンペ優秀賞2案をベースに寄せ集めたものであり、良くも悪くもない平凡な計画である。広島のこの地にしか存在しえないインパクトのあるものではなく、どこにでも見られるようなプランである。
    ・森のパビリオン・折り鶴ホール・外野スタンドの施設が点在し、森のパビリオンと折り鶴ホールは民間施設として整備・管理運営されることになっている。経営的に採算が取れるのか?はなはだ疑問である。
    ・森のパビリオンも折り鶴ホールも共に事業コンペの優秀賞案で提案したものとは異なものとなっており、個々の事業を継続して担当する権利は疑問がある。
    ・球場のメモリアルとして残す外野スタンドはボリューム(高さ・幅共)があり、周辺エリアとの一体感を阻害する存在となる。
    ・一番の問題は市の事業の進め方である。民間の事業コンペを採用したスタート時点での判断ミスが尾を引いている。形式的な手続きばかりを主張する市のスタンスは狂っているが、誰も修正できない。ボタンの掛け違いは初心に戻る以外に手はない。

  • 私の提案
  • ・平和のメッカとして世界から巡礼に訪れるようなオンリー・ワンのコンセプトを持った空間にすべきである。原爆ドームとつながった地下空間を神聖な場とし、地上部分を現計画に近い楽しく寛げる広場とする。現在の原爆ドームは素通りされるだけで、孤立している。
    ・エリア内の施設は個別に整備するのではなく、商工会議所・劇場等を含めた施設群として管理運営と一体となった整備をすべきである。各施設の機能が有機的に働くようにプランニングする必要がある。
    ・球場のメモリアルとして残すべきものは正面のスタンドである。最低でも正面のファサードである。それを前提条件に計画することは可能である。
    ・森のパビリオン・折り鶴ホール・外野スタンドは白紙に戻して、当面更地にして広場とする。じっくり時間をかけて発注条件・設計条件等を整理し、世界的なコンペ(PFI等の活用)を実施する。
    ・このエリア内で一番影響力の大きい施設は商工会議所である。森のパビリオン等の市の施設と商工会議所の施設を合築にし、複合施設として総合的に設計することも可能ではないか?市と商工会議所が共同事業者になれば可能である。
    ・整備計画案は大きな模型を作り、模型を囲みながらコーディネーターを中心にして市民との対話を重ね、広く市民の理解と協力を得る努力をすべきである。

雑感

(旧市民球場解体反対の動き)

「旧広島市民球場フォーラム」が旧球場の解体に反対する地元住民等により5月末に結成され、旧広島市民球場の廃止条例案が市議会で可決される当日まで、解体反対を訴える活動を続けました。
私も将来的には解体されることに賛成ですが、跡地利用が定まらない中での解体には慎重に対応すべきだと思っていました。
今回、市が整備イメージ図を公表したことにより、反対していた市議の一部会派が賛成に回りました。市議会は球場廃止条例案を可決し、年内にも解体できる状態になりました。
反対運動が功を奏さなかった原因はいろいろあると思いますが、フォーラムが跡地利用に対してバラバラな意見の集まりだったからだと思います。集約された跡地利用計画を提示できずに、ただ解体反対を叫んでも説得力に欠けます。少なくとも市の整備イメージを凌駕するプランを持ち得なかったことが一番の敗因です。

(イベント及び集客能力について)

年間150万人以上の集客が事業コンペの提案条件の一つとなり、市の計画案に対して地元商店街等から集客が期待できないという批判が出ていたため、賑わいづくり研究会を設置して理論武装をしました。
市は研究会の提案を受けて、賑わいを持たせようとしていますが、人が集まればよいというものでもありません。他地区の賑わいがここに移動しただけでは広島全体としては全く意味がありません。
新たな集客を継続的に増やしていくためには、広島のメッセージである「愛と平和」を世界にアピールすることでしょう。愛と平和の心を求めて、世界の人々が一度は巡礼したくなる環境を整えることです。
「世界の愛と平和のメッカ」を作るという力強いコンセプトを持って取組めば、年間1000万人の集客も夢ではないでしょう。

(終わりに)

市の整備イメージ図で本当に跡地利用が定まったのかどうか疑問です。森のパビリオンや折り鶴ホール(仮称)、外野スタンドの整備に対して誰が責任を持ってマネジメントするのでしょうか?これまでの行政のやり方を見ていて、市の担当部局にその能力があるとは思えません。丹下健三氏のような事業全体をマネージできる総合プロデューサーが求められています。
このまま市の整備イメージのようなものが出来上がったとしたら、広島市民の文化度が疑われます。市の整備イメージ以上の対案が出されないために、市民は黙っています。諦めにも似た、盛り上がりのないまま、この公園整備が進めば、不幸なことです。
ここは志のある建築家が立ち上がって、真に市民が望む跡地利用計画を提示すべき時ではないでしょうか。
志のある有能な建築家達よ!今こそ立ち上がれ!
広島を愛する市民の心をつかもうではないか!

(参考資料:広島市の「旧広島市民球場跡地整備の概要と
新たなにぎわいづくりに向けて」)

*ちょっとコーヒーブレイク : 『永遠の場所

  (2010.7.15 記載)
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