映画「ア・ハード・デイズ・ナイト」

ハードデイズDVD

映画「ア・ハード・デイズ・ナイト」のDVD廉価版が発売されることを知り、今年3月に購入しました。1964年のオリジナル作品をデジタル・リマスターして、2001年に再度劇場公開された作品をDVD化したものです。
この映画は1976年頃に横浜の映画館で「レット・イット・ビー」との2本立てを見ました。2001年のリマスター版は川崎で見ています。が、細かなストーリーはほとんど忘れていました。
このたびパソコンで鑑賞すると、面白さが蘇ってきました。目が悪いので、劇場では字幕に追われて全体の動きを見落としがちです。その点、家で見るDVDは見たいところは何度も再生できるし、見落としがありません。
じっくり鑑賞できたので、この映画の魅力を冷静に紐解いてみたいと思います。

あらすじ

ハードデイズ4 熱狂的なファンに囲まれながらホテルからコンサート会場へ行き来する毎日の中、ポールのお爺さんがコンサート・ツアーに同行します。そのお爺さんが巻き起こすトラブルに周りは振り回されます。
お爺さんにそそのかされたリンゴは自分を見つめるために一人で町に出かけます。公開TV番組の本番20分前になっても戻ってきません。リンゴは町の中を彷徨ったあげく、浮浪者として警察に保護されます。3人は救出に行き、本番直前に戻って無事開演します。
飛んだり跳ねたりのドタバタ喜劇ですが、当時のビートルズの等身大の姿を見事に表現した傑作でもあります。ポップ・アイドルスターの映画としては画期的な作品で、ビートルマニアが一気に世界に蔓延しました。

挿入曲(抜粋)

  • ア・ハード・デイズ・ナイト
  • ハードデイズ1 映画のイントロに使われ、ファンの追っかけを振り切って列車に乗り込むまでのシーンのバックに流される。
    また、公開TV番組の演奏を終えて、次のコンサート会場にヘリで直行する最後のシーンにも流され、そのままエンドロールへ。
    休む暇もなく一日中働きづめであった当時の心境を歌ったもので、この映画の主題歌であり、タイトルとなっている。
    邦題は「ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」と名付けられ、日本での映像デビューといえる。

  • アイ・シュッド・ハブ・ノウン・ベター
  • ハードデイズ6 列車内でのいたずらを防止するため、お爺さんをオリに閉じ込める。ビートルズの4人も中に入ってトランプを始めながら、この曲が歌われる。
    邦題「恋する二人」、相思相愛の熱々のラブソング。私のお気に入りの歌でもあった。オリの外に若い女性達が集まり、歌に聞き入る。その中に後にジョージの妻となるパティがいる。

  • イフ・アイ・フェル
  • ハードデイズ7 コンサート会場に到着してレセプション・パーティに顔を出し、記者からインタビューを受ける。適当に受け流しながら答えている姿は、彼らの普段のスタイルである。
    パーティを抜け出し、ステージを下見すると準備の真っ最中。その中でこの歌を演奏し始める。邦題「恋に落ちたら」、これもジョンの作ったラブ・バラード。当時のジョンはまだ恋の歌ばかり作っていた。

  • キャント・バイ・ミー・ラブ
  • ハードデイズ8 「イフ・アイ・フェル」の演奏を終え、リハーサルまで休憩。マネジャーは楽屋に監禁しようとしたが、4人は部屋を飛び出す。隣の空き地で飛んだり跳ねたり、勝手気ままな動きのシーンに流れる。後半にリンゴの救出シーンでも使われている。
    この歌は「愛は金では買えない」というポールのメッセージ・ソング。ビートルズとしても初めてのメッセージ・ソングではないだろうか?

  • アンド・アイ・ラブ・ハー
  • ハードデイズ11 4人が楽屋に戻り、マネジャーから叱られるが、意に介せず。リンゴだけ従順な態度をとり、3人からいびられる。ステージで1回目のリハーサルをし、主にカメラ・ワークをチェックする。
    この曲はポールのラブソング。ポールらしい哀愁に満ちた曲で、スタンダード・ナンバーになっている。

  • アイム・ハピー・ジャストゥ・ダンス・ウイズ・ユー
  • ハードデイズ12 「アンド・アイ・ラブ・ハー」の演奏を終え、一度楽屋に戻り、再度ステージへ。2回目のリハーサルでこの歌を演奏。 邦題「素敵なダンス」はジョージのボーカルのためにジョンが書いた楽曲。
    この後1時間の休憩を取り、最終リハーサルの予定であったが、お爺さんにそそのかされたリンゴは自分を見つめ直すために町に出る。この映画のクライマックスである。

  • シー・ラブズ・ユー
  • ハードデイズ14 最終リハーサルの時間になっても、リンゴは戻ってこない。本番まで20分に迫り、警察に捕まっていることを知る。3人は救出に行き、そのドタバタの追いかけっこのバックに「キャント・バイ・ミー・ラブ」が流れる。
    開演直前に4人はステージに上がる。コンサートホールに観客を入れた公開TV番組では4曲演奏し、その最後の曲が「シー・ラブズ・ユー」。生演奏(?)のフルバージョンで観客が一番盛り上がっている。
    映画撮影時には既にヒットし終えていた曲を選んだのは、この曲の持つパワー(勢い)が閉めの曲としてフィットしたからであろう。「シー・ラブズ・ユー・イェー・イェー・イェー・イェーー

お気に入りシーン

  
  • 食堂車でポールが女性にアプローチ
  • ハードデイズ5
    ポールが女性にアプローチ
    食堂車に若い女性二人(右がパティ)が席に着く。ビートルズと気が付かれることを気にしながらも、帽子をかぶって女性に声をかける。お爺さんが大声で「囚人だ!」と叫び、女性達は怖がって退散する。
    大したシーンではないが、演奏以外のポールの役としての華は他に見当たらない。ポールはカメラを意識しすぎる嫌いがあり、役者には向かないようだ。

  • ジョンと中年女性の本人確認
  • ハードデイズ9
    ジョンと中年女性の本人確認
    ジョンを一目見て、ビートルズのジョンではないかと直感する。本人ではないかと声をかけると、ジョンは耳に近づけて小さな声で「そうだ」と答える。近眼(?)の女性はめがねをかけなおし、ライトを当て顔を近づけて確認した後、「偽者よ」と言って立ち去る。
    隠すのが常識なのに、あまりにすんなり認めたので、逆に不審に思ったのである。ジョンは「自分より上手だ!」と兜を脱ぐ。
    ジョン役はマネジャーに悪態をついたり、からかったり、辛らつな意見を言ったり、ジョンらしい個性が発揮されている。

  • ジョージが誤って芸能プロダクションのオフィスへ
  • ハードデイズ10
    芸能プロダクションのオフィスにて
    楽屋に入るのを間違えて芸能プロダクションのオフィスに迷い込む。ファッションモデルの売り込みに来たものと勘違いし、シャツのモデルを探していた社長はジョージを見て即断しようとする。ジョージを今はやりのビートルズの格好を真似た若者と見る。
    ジョージはシャツを見て、「グロッティだ」と評価を下し、相手役の女性モデルをこき下ろす。社長は憤慨してジョージを追い払うが、後でジョージの判断の方が時代の先を行っていることに気がつく。
    ジョージ役の出番は控えめではあるが、ジョージらしい存在感がある。

  • リンゴが工事中のぬかるみをエスコート
  • ハードデイズ13
    女性が穴に落ちる
    リンゴはチビで鼻がでかいと皆にからかわれ、劣等感を持っている。お爺さんから「お前は太鼓を叩くか本を読むしか能のないお人よしだ。書を捨て町に出て、もっと自由に生きろ!」とそそのかされる。
    そうかもしれないと思い、リンゴはカメラを手に町に出かける。バックに「ディス・ボーイ(リンゴのテーマとも言われる)」のストリングスが流れる。
    いろいろなシーンがあるが、工事中のぬかるんだ路上で女性のためコートを脱ぎ、ぬかるみに敷いて女性をエスコートしたが、3箇所目で穴に落とし込む破目になる。大笑いした。
    リンゴはいい役を演じ、高く評価され、後に役者としても開花する。

  • ポールのお爺さん
  • ハードデイズ3
    ポールとお爺さん
    この映画の主役は勿論ビートルズであるが、このお爺さんのいたずらや失敗が巻き起こす騒動に振り回される筋書きが、この映画にバラエティ(変化と面白さ)を与えている。
    若いアイドルスター、ビートルズに対して枯れた老人を相手役に抜擢した監督リチャード・レスターの手腕を高く評価したい。この映画の真の主演はこの役者だと思う。

雑感

ビートルズは1964年2月にセンセーショナルなアメリカ・デビューを飾り、帰国後すぐに映画がクランク・インされています。世界に大きく羽ばたく前哨戦であり、まだビッグとは言えないので、安価な予算で短期間に制作されました。
ビートルズは役者ではないので、ビートルズのメンバーとして登場し、彼らが置かれた現実の世界をベースに物語が組み立てられています。エルビス・プレスリー等の従来のスター映画の夢見るような場面設定との違いが新鮮に映り、多くのファンがビートルズを身近な存在に感じました。

背伸びをせずに自分たちのスタイルをそのまま演じています。自分たちのアドリブやアイデアも結構採用されたそうで、彼らもこの映画に愛着を感じています。タイトルもスタート時には決まっていなかったようで、多忙な一日が終わった時に、リンゴが「ハード・デイズ・ナイト」と言ったのがきっかけでした。早速ジョンとポールが楽曲を作りタイトル曲としました。シンガー・ソングライターの強味です。

ビートルズは現役時代に4本の映画に主演しています。1作目の「ア・ハード・デイズ・ナイト」は空前の大ヒットで世界中のファンを熱狂させました。2作目の「ヘルプ」は以前に紹介したとおり作品としては駄作でしたが、人気の絶頂期にあり興行的には大成功です。3作目からは自作自演の映画に取組み、クリスマスのテレビ番組向けに作った「マジカル・ミステリー・ツアー」は娯楽性がなく不評に終わりました。4作目の「レット・イット・ビー」は解散後に公開され、解散前の実態をさらけ出した自虐的な映画でした。

ジョンは「ヘルプ」の翌年(1966年)に同じレスター監督の映画「僕の戦争」に兵士役で出演しています。リンゴも「キャンディ」他の何本かの映画に準主演級で単独出演しています。ポールはもう一度自作自演の映画「ヤァー!ブロード・ストリート」に挑戦しますが、失敗に終わり、以降手を出しません。ジョージは映画製作の資金援助やプロデュース的なことはしましたが、賢明にも映画の表舞台に立つことはありません。
4人の個性が絶妙のバランスを備えて、ビートルズという偉大なアーチストを生み出しました。この映画は見事にその片鱗を窺わせる作品だと思います。

*ちょっとコーヒーブレイク : 『あの娘だけと(アンド・アイ・ラブ・ハー)

  (2010.6.15 記載)
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