広島市民球場跡地利用

前回の『青木茂氏の「リファイン建築」講演会』の中で、現市民球場跡地利用についてコメントを記述しました。
十分な検討をした訳ではなく、思いついたことを気ままに書いたものです。インターネットで関連情報を当たってみると、既に多くの提案がなされていました。
広島市の方でも検討がなされ、立派な報告書が公表されているし、市民から広くアイデアを募ったり、事業者の企画提案を公募して優秀案2作品まで選出されています。
現在、最後の調整中のようですが、これまで提案されている案を整理して、私なりの結論を導き出したいと思います。

これまでの経緯

  • 2005年9月、建設場所をヤード跡地とする「新球場建設の基本方針について」を公表
  • 2005年11月〜2006年1月、現球場跡地利用提案募集
  • 2006年6月、広島市民球場跡地利用検討会議の「跡地利用の方向性に関する報告書」を提出
  • 2007年1月〜2007年3月、広島市民球場跡地事業計画案及び事業予定者募集
  • 2007年8月、広島市民球場跡地事業計画案及び事業予定者選考委員会の選考結果の報告
    ・最優秀案:該当なし
    ・優秀案:2作品(平和祈念堂、水な都(みなと)Mother's Stage)


提案の比較

これまで市民や各種団体等から多くの提案がなされていますが、ここでは広島市が選考した二つの優秀案、地元経済4団体からの提言、ホームページarch-hiroshima管理人(makoto)の私的な提案に絞って、比較検討を行うこととします。
  • 現状分析
  • 周辺地区
    周辺地区
    平和資料館ー慰霊碑ー原爆ドームの軸線の後背地に市民球場のエリアがあります。祈りの場である平和公園にいても、球場からの歓声が聞こえ、「カープ頑張ってるな!」と市民に希望と勇気を与えてくれました。その市民球場が移転してしまうと祭りの後の寂しさを感じます。
    静寂な平和公園に対して、市民球場跡地エリアは賑わいのある方がバランスが取れています。またこのエリアは総合体育館、図書館、美術館等の公共建築が多く集積しています。更に北側の芝生広場、広島城と繋がって中央公園を形成しています。
    このエリアの建築は街区を取り巻く道路からのアプローチが主となっており、建築群としての一体感が不足しています。特にバスセンターの進入路により東西に分断されているのが致命的です。市民球場跡地利用として、まず公共建築等の横の連携が図れる動線・仕掛けを築くことが優先されます。
    市の財政が厳しく、今回の公園整備への投資も極力制限されています。民間活力に期待をかけているようですが、金を出さずに口ばかり出すようでは、よいプランができるはずがありません。未来に禍根を残さないためにも、市は予算を重点的に確保して、あまり細かな注文はつけない姿勢をとって欲しいものです。

  • 与条件
  • 「広島市民球場跡地事業計画案及び事業予定者応募要項」からの抜粋
    ○平和公園や周辺地域との回遊性を向上させる
    ○基町環境護岸や中央公園の既存施設の利活用の取り組み
    ○応募者である民間事業者が主体となって、施設の建設及び運営を行う
    ○施設を建設する場合は、都市公園法上の公園施設に限る
    ○世界遺産である原爆ドーム周辺にふさわしい景観となるよう、高さやデザイン、色彩等に十分配慮
    ○年間150万人以上の集客が期待できる計画

  • 4つの提案の評価
    • 公募優秀案「平和祈念堂」
    • 提案1
      公募優秀案「平和祈念堂」より
      市民球場を全面撤去して更地にする。センター部分は芝生広場にしてその中央に折り鶴をイメージした平和祈念堂を配置。周辺は市民の森とし、外周部に円形の園路を設けてエリア内の各建築にアクセス。東側に団体バス等の発着場を併設したビジターセンターを配置。

      このエリアに平和祈念堂はいかがかと思うが、ビジターセンター又は公園管理事務所は適切と思う。癒しの空間として緑のオープンスペースが評価されたものと思う。

    • 公募優秀案「水な都(みなと) Mother's Stage」
    • 提案2
      公募優秀案「水な都(みなと) 」より
      市民球場を全面撤去して更地にする。慰霊碑ー原爆ドームの軸線上を「地球の道」とし、サクラ並木を配置。全体を地球公園と位置づけ、中央に広場、周辺をサークル状に盛り上げた丘で囲み、「水」の持つ様々な情景を織り込んでいる。

      平和公園の軸線を延ばしたプロムナードは正解。国境のない「地球」づくりのコンセプトと提案された形が合致していない。内に完結した形で、周辺施設との利活用や回遊性の配慮に欠けている。「水」をテーマにしたデザイン性が評価される。

    • 地元経済4団体からの提言
    • 提案3
      「地元経済4団体からの提言」より
      経済界からの要望に応えたのであろうが、「未来の希望の丘ー新平和公園」と銘打って、多くの機能と場を盛り込んだ複合建築の集合体。歩行者デッキで平和公園や他の公共建築とつなぐ。「希望の塔」と称した高さ220mの観覧車塔を軸線上に設置。夢を抱かせる提案。

      東京に最近誕生している大規模再開発プロジェクトの再現を髣髴させる。この地に相応しいか疑問。歩行者デッキで各施設を連結するのは一つの提案であるが、平和公園とつなぐのはどうか。150万人の集客と回遊性に重点を置いているが、何かが欠けている。新平和公園を築こうとするビジョンは良しとするが、人を集めて商売をしようという魂胆が見え透いている。

    • ホームページarch-hiroshima管理人(makoto)の私的な提案
    • 提案4
      「ホームページarch-hiroshima」より
      このエリアに散在する公共施設群を更新時期に合わせて順次、移転・集約させていく。そごう3階に入っているバスセンターを計画地(東側)の地下に移設し、地上部に各所に分散していた公共施設群を入居させる共同ビルを提案。西側の敷地は低層建物と緑のオープンスペースとし、平和公園の景観軸を完成させる。

      慌てて整備せずに時間をかけて、じっくり取り組むスタンスは好感が持てる。バスセンターを移設する提案も将来の建て替え時期には現実味がありそうだ。公共施設を集約化・効率化し、集客施設として育てることにより、人の流れを呼び込もうとする方向性は正しい。

    私の提案

    当面は必要最小限の投資とし、運営面のソフト強化を図ります。一つの案として、正面観覧席を利用した屋外ステージは市民のパフォーマンスの場とし、将来的には球場跡地エリア全体を「大衆芸能の殿堂」にまで高めていくことを目標とします。
    「"Love"アンド"Peace"」は二つでセットであり、"Peace"は平和公園、球場跡地は"Love"を担います。球場跡地エリアが完成して、初めて広島平和記念公園が完結します。 計画案
















    • コンセプト
    • 市民球場
      市民球場正面
      市民球場グラウンド
      市民球場グラウンド
      球場構造物は必要部分を残し、リファイン建築とする。余分なものを取り去った後は、オープンスペースとして多目的に利用し、周辺の公共建築等の前庭と位置づける。将来、機が熟せば、都市公園の一部を用途変更して、新しい都市機能を付加する。

    • 球場の残すもの
    • 正面部分の観覧席、バックスクリーン、照明塔、フェンス。壊すものは正面部分以外の観覧席。

    • 新設するもの
    • 平和公園軸線上のプロムナード。観覧席撤去部分に高木と遊歩道。正面観覧席部にステージ。

    • 改修するもの
    • ・球場正面部分は、公園管理事務所、カープ記念館等の新しい機能にリファインする。その際、デザインコンペを実施。
      ・ハノーバー庭園の噴水を大型に改修。軸線上のアイストップとする。
      ・グラウンドは多目的に利用できるスペースとする。

    • その他
    • ・商工会議所ビルは景観上の問題を指摘されているが、場合によっては上層階を撤去してリファインする。
      ・グランド活用のイベント企画を充実させる。市民の野球・ソフトボール等のレクレーション。フラワーフェスティバル・盆踊り等の祭り会場。野外コンサート・サーカス・ミュージカル等の仮設劇場。その他諸々のイベント会場として活用。

    雑感

    (市の役割について)
    街づくりにおいて市の役割は、基本方針を定めて、物事を決定することです。有識者の意見を聞いたり、市民からアイデアを募ることは大事ですが、肝心なことは決定し、実行することです。そのためには予算の裏づけを持つことです。他人のふんどしで相撲をとろうとしても、リーダーシップは発揮できません。
    民間の活力を活用しようとするならば、規制を緩和することです。それをせずして、民の力を活用しようとすると、今回のような中途半端な結果となります。

    (企画公募について)
    今回のように、民間事業者による企画提案を公募しても、採算性のリスクを全面的に事業者にとらせるのでは、提案する方も腰が引けるのはよく理解できます。審査する側も事業性の可否を判断することができず、あいまいな形でお茶を濁すことになります。公募の主催者である市も結論を先送りしています。
    応募した事業者は金と知恵を結集して提案したのに、明快な結論が下されないのは忸怩たる思いでしょう。提案費用ぐらいは常識として市が負担すべきではないでしょうか。ただ働きさせて、何も感じないとしたら、市の感覚を疑います。

    (地元の建築家について)
    最終的に応募した6事業者のうち3者が地元です。残念ながら優秀案に残ることはできませんでした。本気で広島を良くしたいと願っているなら、地元の建築家が立ち上がって、今回のコンペをリードすべきではなかったかと思います。当然、最優秀賞を勝ち取るべきであったと思います。それぐらいの気概と実力を持った建築家が現れて欲しいと願います。

    (終わりに)
    私は市民球場で職場のレクレーションのソフトボールをしたことがあります。感激でした。
    跡地がどうなるのか、多くの市民が固唾を呑んで見守っています。市主催の事業計画案の公募も、誰も文句のつけようのない圧倒的な提案がなされなかったことを残念に思います。
    現在、経済界からの要請を受け、地元の建築家が中心となって再度提言がなされると聞きます。平和公園コンペ時の丹下案に匹敵する、世紀を刻む計画案の誕生を期待しています。
    私はフリーな立場ですので、勝手なことを書きました。主に4つの提案を比較検討しながら、私なりにまとめた案です。最終案との比較を楽しみにしています。


      (2008.8.1 記載)
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