TQM(トータル・クオリティ・マネジメント)


瀧口信二

施工者が決まると建築生産における現場の施工はゼネコン(請負業者)が主体者となります。発注者は対等の立場で、請負業者の施工をチェックする関係です。
請負業者は適正な利益を上げるため、設計図書に要求された品質・性能をいかに安く、より安全に完成させるかに全力を傾注します。その姿勢の中にTQCとかTQMの手法が活用されるようになりました。
今回は、施工者サイドで取組まれているTQMに対して、発注者サイドから見た目で記述したいと思います。

TQMの内容

TQMは、一般的に「総合的品質経営」と訳されています。TQCが現場における品質改善活動を全社的にサポートする仕組みに対して、会社の経営目標として品質改善活動や顧客満足度獲得活動の中に組み込まれた方式です。
  高品質をアピールしたい多くの企業はISO9000シリーズ(品質マネジメントシステムの国際規格)の認証取得にチャレンジしています。公共発注者も施工品質の確保のため、この認証取得を入札参加資格条件に付与しているところもあります。
  建築生産の施工過程において5W1Hを当てはめ、TQMを紐解いてみます。

  • Who(誰が)
  • 発注者 TQMは、経営戦略上の品質のマネジメントシステムだから、採用するか否かは会社の経営責任者等が決定します。
    一方、建築現場は受注したゼネコンを中心に各種の専門工事業者が協力して現場の体制を編成しています。更に下請・孫請といった重層構造になっています。
    他方、発注者と設計者が絡み、それぞれのマネジメントシステムを振りかざしてくるので、現場全体の整合性の取れたシステムを構築することは至難の技です。
    現場の職人達を動かしているのは、ゼネコンの現場責任者です。発注者や設計者との意思の疎通を図りながら、現場の品質管理システムを確立し、推進させているのはゼネコンの現場責任者ということになります。

  • Why(なぜ)
  • 競争社会の厳しい経営環境の中で、企業として生き抜くためには顧客満足度を高め、品質を保証する体制が求められています。
    顧客は安くて良いものを求めています。企業は顧客の求める品質を経済的に提供するため、会社の方針として品質全体を管理する仕組み(TQM)を採用しました。
    現場の建築生産においても同様です。発注者の求める品質・性能を工期内に、安全に、適正な価格で完成させることが目標です。品質管理・原価管理・工程管理・安全管理・環境管理等をバランスよく組み合わせた品質管理システムが求められます。

  • When(いつ)
  • 会社の経営戦略としてのTQM(ISO9000シリーズの適用等)は役員会議等で揉んで、株主総会に諮り、議決します。
    建築現場ではスタート時点において、元請ゼネコンのTQMに則した現場単位の品質管理システムを作り上げていきます。

  • Where(どこで)
  • 会議 作戦を立てるのは机上ですが、実行するのは現場です。会社の企画室・戦略室等の担当部署がTQMの案を作成し、役員会議等で検討します。
    建築現場では元請ゼネコンの現場代理人を中心にして、発注者・設計者等の関係者が協議の上、品質管理システムを合意します。

  • What(何を)
  • 複数の工種が同時進行する建築現場における施工が順調に進捗するために、品質管理・原価管理・工程管理・安全管理・環境管理等の共通のルールとツールを確立します。
    施工計画書の書き方、情報の伝達方法、記録のとり方、確認の方法等々、現場においてプロセスを明確にし、相互の関係を把握し、一連のプロセスを管理運営できるシステムを構築します。

  • How(どのように)
  • 検査 ISO9001とは、組織が品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実施し、維持することです。また、そのシステムの有効性を継続的に改善するために要求される規格です。
    具体的には、品質方針・品質目標を設定し、その目標を達成するためにプロセスをPDCAサイクルで維持管理・改善していくことです。
    PDCAサイクルは、Plan:目標・計画 → Do:実施・運用 → Check:点検・検証 → Action :見直し・展開 → の活動を繰り返しながら、継続的に業務の改善を図っていく管理手法です。
    建築現場では、設計図書に表現された品質・性能を形にするために、施工計画書で事前の検討と確認を行い、その計画書に基づいて施工し、一工程の終了時に検査を受けて、必要な手直し等を行いながら、次工程に進みます。工事が完成するまで順次、各工種毎に同様の作業を繰り返します。

TQMのフロー(PDCAサイクル)

    PDCAサイクル
  1. PLAN
  2. プロジェクトを実施する前に、会社の経営戦略に基づく基本方針と具体的な目標値を設定し、その目標値を達成するために4W1H(いつ・誰が・どこで・何を・どのように実施するか)を検討する。
    決められた内容は計画書として文書化し、関係者に周知徹底する。

  3. DO
  4. 計画書に基づき、それぞれの担当者が役割分担に応じて実行に移す。同時進行の場合は、管理する者が総合調整等の監督・指揮をする。
    トラブルが発生した時に原因が究明できるように、実施の過程は可能な範囲で記録に残す。

  5. CHECK
  6. 実施後、設定した目標値と達成結果を比較検討し、問題がある場合は原因を解明して改善を図る。
    基本的に実施する者とチェックする者は別人とし、チェックは客観的に評価できる者が行う。

  7. ACTION
  8. フロー全体を通して問題点等を総括し、目標値・マニュアル等の当初の計画書の見直しを行う。
    それぞれの分野の専門家による英知を集め、標準化・基準化を図る。

ケース・スタディ

これまで建築生産のプロセスでモデルにした可部駅ビル(仮想)の施工者サイドのTQMの一部をスタディしてみます。

    配置図
    建物配置図
    可部駅ビル
    建物機能図
    パース
    建物パース
  1. 工事概要
    • 所在地 : 可部駅構内
    • 建物規模 : 鉄骨造2階建て、延べ床面積600?程度
    • 予定価格 : 9.000万円
    • 工期 : 2010年10月〜2011年3月末

  2. 施工品質の確保
  3. 会社の経営方針としては、顧客を満足させながら適正な原価・品質・安全・利益を確保することである。
    営利企業としては適正な利益を上げることは至上命令であり、血の滲むような努力がなされている。一方、顧客は適正な品質が最優先であり、その狭間で現場の施工者は工夫を凝らしている。
    ここでは、施工品質を確保するための事例の一部をPDCAサイクルに沿って紹介する。

    • PLAN
    • ・発注者及び設計者等の要望を確認し、関係者間の連絡調整等のルールを確立する。
      ・設計図書を熟読し、建設地及びその周辺の状況を把握した上で、工事着手前に総合仮設計画を立てる。
      敷地と建物の配置から建設重機や建築資材等の搬出入ルートを検討し、出入り口・資材置き場・作業スペース・現場事務所等の配置を決める。
      ・各業種の職人の手配・建築資材等の購入の計画を立てる。
      ・会社が持つマニュアル等を参考にして、現場に即した工程管理・品質管理・安全管理等に関わる全般的なルールを総合施工計画書としてまとめる。

    • DO
    • ・元請の現場代理人等の責任ある者が専門工事業者の職長等に現場のルールと担当工事の施工計画書を説明する。
      ・設計図書と施工計画書に沿って職人が施工し、専門工事業者の自主施工管理の一環として工事写真等で施工状況を記録する。
      ・上記の工事写真等は元請の現場マンの立会いが望ましい。

    • CHECK
    • ・元請の現場マンが施工の一工程毎にチェックし、設計図書通り施工されているか確認しながら次の工程に進む。
      ・もし間違い等が見つかれば、手直しをさせ、原因と結果等を記録に残す。

    • ACTION
    • ・現場で発生した施工ミスやトラブル等を整理し、会社の技術担当部署に報告する。
      ・会社の技術担当部署は各現場から集まった問題点等を分析し、ミス等を防止するための方策等を検討する。
      ・改善点は次のPLANに活かせるように標準化し、各現場担当に周知を図る。

雑感

最近は情報技術(IT)の著しい進展により、建築現場の環境も随分様変わりしているものと思います。関係者間の情報の伝達や共有化も容易になりました。
TQCやTQMも格段に進んでいるのではないでしょうか。製造業で成功したノウハウが一歩遅れて、建設業に適用されることが多く見受けられます。TQM等も同様です。
工場生産は整った環境の中で機械により均一な製品を作ることが求められますが、建築生産は大半が吹きさらしの中で職人の手で作られます。どうしても他の産業と比べて3ム(ムリ・ムダ・ムラ)が多く発生します。
高度化し、複雑化していく生産環境ではありますが、3ムを最小化することがTQCやTQMの究極的な目的ではないでしょうか。時には物事を単純化して考えることが必要ではないかと思う今日この頃です。

*ちょっとコーヒーブレイク : 『ヘイ・ヘイ・ジュード

  (2010.10.15 記載)   
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