ひろしましみんひろばの提案
私たちの提案は、ひろしまの復興が行政と市民の協働により実現した原点に立ち戻り、既存条件に適応させるのではなく、まず理想の姿を提案し、それを実現するための課題等を市民との協働により解決していこうという姿勢を基本としている。
しみんひろばとは、市民の生活の場であり、祭りの場であり、世界から訪れる人達との交流の場である。
一年間を通じて多様なイベントの開催を可能とする屋根付きのオープンスペースとし、原爆ドームを望むことにより、潜在的に平和都市ひろしまを考え続ける市民のエネルギーの場となる。
国際的アーチストの企画展示、平和コンサート、市民マーケット等、ひろばの運営は市民の協働により行う。
バスセンターと一体となった「しみんひろば」は都市の回遊の中心であり、しみんひろばを取り巻く下記の7つの環境を整備することにより、都市の回遊性を一段と高める。
- バスセンターの整備 バスセンターは現在そごうの3階に入居している。進入用の長いスロープは醜い姿で中央公園内を東西に分断している。そごうにとっては手放せない存在だろうが、バスセンターの利用者にはこの場所がベストとは思えない。
- 回遊性の向上 都市の回遊の中心となる「ひろしましみんひろば」からペデストリアンデッキの道路網を伸ばし、公園内を貫通している幹線道路を立体交差させ、公園全体及び隣接商業施設との回遊性を高める。 また、緑地公園及びリバーウォークを介して南北の動線を強化する。
- 河岸民有地を公園に 中央公園の河岸側に商工会議所(民有地)、PL教団(民有地)、青少年センター、こども文化科学館等が川に背中を向けて建っている。川と中央公園を分断しており、商工会議所等は原爆ドームの背景としての景観も損ねている。
- 新しい公共施設 中央公園内には老朽化しつつある中央図書館・青少年センター・こども文化科学館・ファミリープール等の公共文化施設が散在している。
- 河岸街の整備 中央公園の北側に位置する川側の市営及び県営基町住宅(中層)は用途変更が検討されている。現在のリバーウォークは散歩程度にしか利用されていないので、集客の期待できる企画展開型の商業施設を河岸に沿って整備し、賑わいを作る。
- 基町高層住宅の再整備 基町高層住宅の住民も高齢化し、低層部にあるマーケット等も寂れて、このまま放置すると環境の悪化の恐れがある。また、ピロティも近づきがたい雰囲気があるので、開放的なマーケットや飲食店に再整備し、中央公園及び河岸への人の流れを作る。高層住宅の住民もまちの賑わいに積極的に参加できる環境とする。
- リバーウォークの拡充 現在のリバーウォークは橋のたもとでくびれて、一般の市民にはあまり利用されていない。そこで橋の下を思い切って広げ、土手の道につながる。これまで橋のところで切断されていた土手の道が歩行者専用として生まれ変わり、その道沿いに河岸街が展開する。平和公園から新白島駅方面までの一本の道(リバーウォーク)が人の流れを呼び込み、中央公園と街の一体感が生まれる。
バスセンターは経年劣化により建て替え時期が訪れる。そのタイミングで旧市民球場跡地の「ひろしましみんひろば」の下にバスセンターを移設する。併せて観光バス駐車場も整備する。
バスセンターは人の動きの発生源であり、「ひろしましみんひろば」もイベントにより人で賑わう。バスセンターを伴う「ひろしましみんひろば」は人間の心臓のように絶えず人の循環を促進する。
一方、旧球場跡地の東側のNTT施設やバスセンター(そごう内)施設も老朽化の進行が予想される。
そこで、NTT所有地とバスセンターエリアを再開発事業区域とする。再開発ビルに商工会議所等を集約し、河岸民有地を公園区域に編入して緑地公園とし、ひろしましみんひろばと連続させる。
再開発ビルは、ひろしましみんひろばに開かれたプランとし、一体的な都市空間を形成する。
これらの既存施設を再編するとともに、これからの時代のニーズに対応した施設(メディアセンター等)を併設して、子供から大人まで楽しめる公共施設をひろしましみんひろばの周辺に計画的に整備する。
中央公園エリアの現状と課題
- 平和公園とのつながりが弱い 中央公園と平和公園は電車通りで分断されており、路上の歩行でつながっている。わずかにリバーウォークが細々と、橋の下をくぐって原爆ドーム側と河川敷を連絡している。
- 既存公共施設の老朽化 県立体育館(グリンアリーナ)を除いては築40年前後の公共施設が多く、老朽化が進んでいる。また、それぞれの敷地にバラバラに建てられ、統一感がない。
- 幹線道路による分断 幹線道路が東西南北に走っており、中央公園が細かなゾーンに分割されている。
- バスセンターの老朽化 バスセンターが3階に入居している大型百貨店(そごう)も築40年前後が経ち、老朽化が進んでいる。特に、バスセンターは狭隘で、機能的にも見劣りしている。外部にあるアプローチ用の進入斜路はエリアを分断しているだけでなく、見苦しい姿をさらけ出している。
- 観光バス駐車場が不足 平和公園への観光バスの駐車場が離れた場所にあり、不便であるとともに、絶対数が不足しているため、平和公園内に溢れていることが多々ある。
- 基町高層住宅の役割変化 戦後の仮設住宅を解消するために建てられた基町高層住宅も築30年が経ち、入居者も様変わりしつつある。当初の役割を終え、新しい役割が求められている。
- リバーサイドが活かされていない 親しみやすい護岸整備がなされているが、中央公園とは土手の道で完全に分離されている。また、リバーサイドの建物も川に背中を向けているため、一体感がない。
基本的な考え方
- 提案の前提条件 ・対象エリア:広島市中央公園内だけでなく、その周辺も含む。
- 基本理念 ・広島市は、憲法第95条による特別法「広島平和記念都市建設法」を制定し、世界平和のシンボルとして、ひろしまのまちを復興させる決意をした。
- グランドデザインとは ・グランドデザインの概念は曖昧だが、ここではひろしまの将来像、地域性などを見据えた、大きな視野に立った計画としてとらえる。
- 旧市民球場跡地エリアとは ・平和記念公園と中央公園は一体のものであり、その結節点に当たる旧市民球場跡地エリアは誰でも利用できるオープンな都市空間が望ましい。
・目標年次:被爆100年後、2045年の姿を提案し、その実現に向けて段階的に整備していく。
・計画手法:行政と市民との協働による課題解決型のまちづくり手法を基本とする。
・その代表的な事業として、平和記念公園、中央公園、平和大通りを「平和記念施設」に格付けようとしたが、国の財政的な事情により中央公園が除外された。
・先人たちの平和記念都市の理想を受け継ぎ、平和記念公園から中央公園、平和大通り一帯が国際平和文化都市ひろしまを象徴する空間となるように、中央公園とその周辺を整備する。
・市の検討委員会が旧市民球場跡地のエリアだけを対象に議論したのに対して、俯瞰的に高い視点と長期的な視点を持って考えていく。
・旧市民球場周辺は、戦後の焼け跡のなか、広島平和祭が開かれたり、盆踊りをしたり、市民が憩うひろばであった。その後、市民球場が作られ、市民のエネルギー復活の場となった。
・ひろしまの復興を支えた市民のエネルギーの場を今後も持ち続けるため、このエリアを平和都市ひろしまを考え続ける場として、「ひろしましみんひろば」を提案する。
日本建築家協会とは
・日本建築家協会は、建築家の資質の向上及び業務の進歩・改善を図ることを通じて、建築の質の向上と建築文化の創造・発展に貢献することを目的として結成された団体である。・私たちは日本建築家協会の中国支部広島地域会に所属し、ひろしまで都市計画・建築設計に携わる立場から、より豊かで美しく、安全な国土と都市と建築の建設に貢献していきたいと考えている。
・ここ、平和記念公園、中央公園、平和大通りは、先人たちの汗と努力によって創られたひろしまの最も重要な都市空間である。今、この空間の中央にある旧市民球場跡地の利用方針が検討されていることに鑑み、ワーキンググループを編成し、周辺市街地も含む中央公園の将来の在り方を提案した。
雑感
今回の提案は日本建築家協会広島地域のワーキンググループによりまとめたものですが、旧球場跡地活用についてはメンバー4人それぞれに思いがあり、この提案がベストとは思っていません。また、時間的な制約もあり、細かな詰めはなされていません。
しかし、広島市の活用方針よりは筋の通った提案であり、問題を提起し、市民に議論していただく材料を提供しようという主旨は、多くの人に賛同してもらえるものと思います。ただ、発表のタイミングが市の活用方針発表後となったため、マスコミの反応はすでに冷めていました。
残念ながら、まだ私たちの提案が広く市民の目に届くところまで至っていません。バスセンターとセットにしたしみんひろば、NTT敷地等の再開発ビル、河岸街の整備等のアイデアは新鮮です。しかし、これらのアイデアを実現するためには多くの課題を克服していかなければなりません。
難題ではありますが、その課題を解決していく仕組みを行政と市民の協働で作っていく必要があります。他のグループからも提案がなされ、活発な議論をしながら意見の集約が図られていくことを期待します。私たちも提案をして終わりではなく、これからも継続的にフォローしていきたいと考えています。
(2013.5.25 記載)