世紀を刻んだ歌:「イマジン」
2001〜2002

タイトル

友から随分前に衛星放送から録画したビートルズ関連のDVDを贈ってもらいました。CPRM対応だったため、私のパソコンでは再生できず、戸棚に仕舞い込んでいました。
昨年末にDVDプレイヤーを購入したので、贈ってもらったDVDを順次鑑賞することにしました。第1弾が2002年6月に放映された、今回の『世紀を刻んだ歌:「イマジン」2001〜2002』です。
視聴してみると、ドキュメンタリー・タッチのレベルの高い作品です。これは一人でも多くの人に知ってもらいたいと思い、ホームページに掲載することにしました。
ジョン・レノンの曲「イマジン」が9.11の同時多発テロによって、どのように解釈されたかを多角的にアプローチしています。そのDVDの内容を私なりに咀嚼して紹介することにします。

あらすじ

番組 アメリカの代表的DJデニス・エルサスのラジオ番組に日本のDJ小林克也が招かれ、二人のトークを中心に据えて話が展開します。ニューヨーク市民への街頭インタビューやヨーコへのインタビューを交え、ミュージシャンの「イマジン」演奏シーン、東京の中学校の授業とニューヨークの中学生の課外授業等を盛り込んでいます。
「イマジン」に込められた精神が、平和が脅かされる度に、多くの人の心に蘇っていく様が見事に描き出されています。

内容

  • 9.11以降
  • 同時多発テロ
    ストリートミュージシャン
    ・2001年9月11日、ニューヨークで世界を震撼させた同時多発テロが発生する。「アイ・ラブ・アメリカ」の声が高まり、テロリストに対する報復攻撃を支持する人が大勢を占める。アメリカの大手ラジオネットワークは放送に不適な歌のリスト150曲を指定し、「イマジン」もその中に選ばれる。
    ・9月21日、被害者を追悼するチャリティ番組でロック界の大御所二ール・ヤングが敢えて「イマジン」を歌う。
    ・9月23日、オノ・ヨーコは新聞の朝刊1面に一行の広告を掲載する。「Imagine all the people living life in peace」、「イマジン」の歌詞の一節である。
    ・ニューヨークの街中では「イマジン」を演奏するミュージシャンが増えていく。テロを受けて、改めて市民はこの歌の意味を噛みしめている。
    ・オノ・ヨーコにより、ニューヨーク、東京、ロンドンの繁華街の広告板に「同文」を掲げる。

  • 「イマジン」の感想
  • 街頭インタビュー     
    ・DJデニスにとって「イマジン」は、慰め、希望や期待、悲しみの曲である。テロ以降、リクエストが最も多かった曲の一つである。
    ・ニューヨーク市民に「イマジン」の感想を聞く。
    • Aさん(男性)
    • 今だに実現できない希望や可能性を歌っているが、9.11以降、癒しの効果もあった。

    • Bさん(若い女性)
    • ジョンは「平和を願う歌」として作ったのであろうが、若い世代にとっても思いは同じ。

    • Cさん(母親)
    • 自分の住む地域や社会にもっと深く関わらなければと思った。
    ・1ヵ月後、ディスコ調に編曲した「イマジン」がビルボードのクラブ演奏部門で9週間連続ヒットチャート・イン。歌手は46歳のサー・アイバン。父親はアウシュビッツ強制収容所を経験。家族の歴史を踏まえ、「イマジン」の心を若い人に伝えることが自分の使命と感じた。

  • アルバム「イマジン」誕生の経緯
  • ベトナム戦争 ベッドイン アルバム
    ・ベトナム戦争が泥沼化し、若者たちは大規模な反戦運動を繰り広げる。
    ・1969年3月、ジョンとヨーコは平和のパフォーマンスとして「ベッド・イン」をし、ホテルで反戦歌「ギブ・ピース・ア・チャンス(平和を我らに)」をレコーディング。
    ・1969年12月、「WAR IS OVER!IF YOU WANT IT(君が望めば、戦争は終わる)」の広告を掲載したポスター・キャンペーンを実施。
    ・平和活動の一環として1971年9月、アルバム「イマジン」を発表。
    • 1964年に出版したオノ・ヨーコの詩集「グレープフルーツ」の「Imagine(想像してごらん)」に触発されている。
    • ロンドン郊外のアスコットの自宅で作曲。レコーディング・シーンが流れる。
    • ヨーコ曰く、「使命感のある歌を作りたいと思っていたが、こんなに大きな曲になるとは思わなかった」。
    ・1974年、DJデニスがジョンに初めて会ったときの印象は、「開けっぴろげで、寛容で、ユーモラスで、頭脳明晰で、知的で、音楽好きな男」だった。
    ・アルバム「イマジン」はサウンド的にも質的にも異なる曲が入っており、ジョンの多面性が窺える。

  • 日本で「イマジン」を教材に
  • 授業 ヨーコ レコード     
    ・約20年前から中学の英語の教科書に採用されている。
    ・ヨーコの新聞広告がきっかけで、「イマジン」を社会科で取り上げる。「リンカーンの奴隷解放宣言」を例にとり、リンカーンは女の子が売られていく様子を見て、こんなことはいつか止めさせたいと思った。思うことは設計図を描くことであり、思わなければ、何も前に進まない。想像することの大切さを教える。
    ・「イマジン」の歌詞の意味を学び、今も平和活動をしているヨーコを知り、授業を受けた170人の生徒はオノ・ヨーコに手紙を出す。その生徒達のコメントを紹介。
    ・DJデニスが大学生だった頃、1960年代後半から70年代前半にかけて、「世界が変えられる」と本気で思っていた。ジョンとヨーコも彼らなりに情報を伝えようとしていた。
    ・中学生の中で、ジョンのファンだった父親を紹介。中学時代、バンドを組んでビートルズの曲を演奏。今は51歳、金物取付けの現場の責任者。帰宅の車中で「イマジン」を聞くと心が安らぐ。ジョンの思いが込められており、ジョンの最後の曲ではないかと錯覚する。
    ・中学生のコメント、「平和とは、動物も人間も差別なく生きていける世界、現実は違います」。その父親(44歳)も中学2年の時に、「イマジン」のレコードを購入する。ベトナム戦争への疑問を感じ、世の中の不条理や不平等に対して申し訳ないという意識を持っていた。世を正したいという気持ちで国際協力事業団の仕事を選ぶ。「イマジン」はそのきっかけとなった。道を見失ったり、挫折したりした時に、「イマジン」を口ずさむと励まされる。何度聞いても飽きない。

  • 「イマジン」の歌詞
  • 歌詞 街頭インタビュー
    ・アメリカと日本で、「イマジン」のメロディをバックに一小節毎に歌詞を刻んで読み上げていく。日本のミュージシャンも参加。
    ・イギリスで行われた「あなたが一番好きな歌詞」のアンケートで堂々の一位。「イマジン」のシンプルな歌詞は、誰でもわかるし、好きなように解釈できる。
    ・「イマジン」全詩
    想像してごらん/ 天国なんてないと
    簡単にできるだろう/ 地獄もない/ ただ空が広がっているだけ
    想像してごらん/ みんなが今日のこの日を生きているところを
    想像してごらん/ 国境なんてないと/ むずかしくなんかないだろう
    殺したり死んだりすることもない/ 宗教もない
    想像してごらん/ みんなが平和に暮らしているところを
    夢だと君は言うかもしれない/ でも僕ひとりじゃないんだ
    みんなもいつか仲間になってほしい/ そうすれば世界はひとつになるだろう
    想像してごらん/ 財産なんてないと/ 君ならできるだろう
    欲張ったり飢えたりすることもない/ みんな兄弟なんだ
    想像してごらん/ 世界はすべてみんなのものだと
    夢だと君は言うかもしれない/ でも僕ひとりじゃないんだ
    みんなもいつか仲間になってほしい/ そうすれば世界はひとつになるだろう
    ・ニューヨークの街頭で「イマジン」の歌詞についてインタビュー。
    • aさん(男性)
    • 「夢だと君は言うかもしれない」というところが好きだ。純粋に理想を言っているような気がするが、考え方によっては不可能ではないと思えてくる。

    • bさん(女性)
    • 宗教や国境や人種でお互いを隔てるのではなく、みんな一緒なんだと訴える歌詞は本当にすばらしい。

    • cさん(男性)
    • 「想像してごらん、天国も地獄もないと」と歌うところは、今の存在そのものが大事なのだと思い起こさせてくれる。所詮我々が関わることができるのは、この世のことだけなのだから。

  • 「イマジン」が注目
  • ジョン カストロ     
    1971年に「イマジン」が誕生して以来、世界が揺れ動く度に注目される。
    ・1980年12月、ジョンが凶弾に倒れる。追悼集会の黙祷のあと、「イマジン」が流れて、みんな泣きながら歌う。
    ・1981年1月、英国で「イマジン」がヒットチャートに再登場し、シングル曲として始めて第1位となる。
    ・1991年、湾岸戦争勃発。多国籍軍に参加している英国で放送自粛曲となる。
    ・1996年、アトランタ・オリンピック会期中にパイプ爆弾のテロ事件。スティービー・ワンダーがオリンピック閉会式で「イマジン」を歌う。
    ・2000年12月、キューバでジョン没後20周年が開かれ、「イマジン」を歌う。カストロ議長も参加。「世界に優れた音楽家は多いが、ジョン・レノンはその思想ゆえにひときわ偉大である」は、カストロ議長のコメント。

  • 米国、課外授業
  • 課外授業     
    同時多発テロから半年後、ニューヨークにも落ち着きが戻る。
    ・ゴードン・スキナー(大学教授)が中学生を対象とした平和についての課外授業に「イマジン」を取り上げる。セントラルパークの一角にある「ストロベリーフィールズ」に集合。
    ・「イマジン」について、「個人によって考えも違うし、押し付けることはできない」、「おとぎ話のように聞こえる」等、後ろ向きな発言が出る。
    ・「イマジン」の歌詞をみんなで朗読する。
    ・「イマジン」を聞いて、具体的な行動を起こし、自分の人生と関係を持たせてきたから、今もこの曲が生きている。
    ・最後にゴードン先生は、「君達こそが明日の担い手であり、パスポートのいらない世の中を作り出してくれ。君達が具体的に行動を起こし、生活に生かした時に、初めて世界を変えることができる。」と熱く語る。

  • 「イマジン」は世界を変えたか?
  • ボストン     
    ・DJデニスは、特定の歌によって劇的に世界を変えられるとは思わないが、「イマジン」のメッセージは確実に一つの世代から次の世代に伝わっている。いつの日か世界をより良い場所に変えていく力があるかもしれない。
    ・DJ小林にとって、嵐の中の灯台のような曲、「希望の灯火」だ。
    ・米国の北東部にあるボストン市で、イマジン・プロジェクトが始まる。子供達により良い生活を想像してもらう目的で、「イマジン」と描かれた壁画を街角のあちこちに制作。幼稚園から高校までの子供達が参加している。

「イマジン」の演奏シーン

  • ジョンのレコーディング
  • レコーディング
    ジョン・レノン 二ール・ヤング
    ニール・ヤング サー・アイバン
    サー・アイバン スティービー・ワンダー
    スティービー・ワンダー
    映画「ギブ・サム・トルース」からの映像が流れる。アスコットの自宅の白いピアノに向かって、弾きながら歌っている。よく見るシーンである。
    力みもなく自然体で歌っている。やさしく包み込むような歌である。「最初から出来上がっていた歌詞、奇跡みたい」という中学生の父親のコメントが印象に残る。

  • ニール・ヤング
  • ピアノの弾き語り。ニール独特のビブラートの利いたか細い声で、心を込めて歌う。「聞く人にテロ事件のことを思い出させると同時に明るいものへの希望も感じさせたのではないか。」と音楽評論家のコメント。
    ニール・ヤングといえば、30数年前にアルバム「ハーベスト」を購入した。どことなく哀調を帯びたサウンドが気に入っていた。

  • サー・アイバン
  • 父親のアウシュビッツ体験はすさまじいものがあり、その息子アイバンも平和の尊さを身に沁みて感じている。故に、「イマジン」のメッセージが心に強く響く。
    若い世代に「イマジン」の歌詞を伝えるために、新鮮にアレンジされたダンス・ミュージック風の「イマジン」を発表。原曲の印象とは全く異なるが、歌詞を大事に歌っている。若い人に世代を超えてみんなを一つにする歌として受け入れられる。

  • スティービー・ワンダー
  • アトランタ・オリンピックの閉会式会場でピアノを弾きながらの演奏である。大歓声の中、演奏のエンディングで酔いしれるスティービーの姿が印象的である。テロ事件の後だけに、「イマジン」の選曲に拍手喝采。
    スティービーはポール・マッカートニーのアルバム「タッグ・オブ・ウォー」(1982年発売)で共演し、「エボニー・アンド・アイボリー」をヒットさせている。

雑感

誰がどのような趣旨で、このドキュメンタリーを制作したのか、定かではありません。
ストーリーの骨格を成す二人のDJ、デニス氏と小林氏は根っからのビートルズ・ファンのようです。小林氏は毎週日曜日夕方6時から1時間のラジオ番組「ビートルズから」のDJを担当していました。2年前まで横浜に住んでいた頃は、よく聞いたものです。今も番組が続いているものと思います。
ヨーコを初め他の登場人物もジョンの理解者であり、「イマジン」の精神を広げたいと願っている人達によって支えられています。

ジョンの歌、特にこの「イマジン」は平易な言葉で綴られ、俳句の世界を感じます。日本の文化にはもともと興味があったようですが、ヨーコとの出会いが決定的となります。ジョンとヨーコは期せずして西洋と東洋が融合し、芸術性と普遍性を獲得することができたのかもしれません。

2001年10月、第1回のドリームパワー・ジョンレノン・スーパーライブがさいたまスーパーアリーナで開催されました。当初はヨーコも参加する予定でしたが、9.11テロのため取り止めました。「今、ニューヨークを離れることはできない。」とスクリーンの画面で挨拶していました。まさに平和のキャンペーンを張っていた最中でした。

想像することの大事さがドキュメンタリーの底辺に流れています。最近は地球環境問題がクローズ・アップされています。このまま行けば地球が温暖化して、人類の将来は真っ暗です。50年後の地球の姿を想像して、先手を打つことができるか否か。人類の英知と想像力が試されています。

今回はDVDの内容紹介がメインとなりましたが、いつかは「私のイマジン論」をものにしたいと思っています。DVDをプレゼントしてくれた友に感謝!感謝!

関連するHPの掲載記事:新井満の自由訳イマジン

  (2008.7.15 記載)

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