白島新駅設計者選定競技

友人の誘いがあり、設計者選定の競技にメンバーの一員として参加する機会がありました。結果は一次選考の段階で見事に落選です。
これまで発注者の立場で設計者選定等を行ったことはありますが、審査される側は初めての経験です。我々の提案は他のグループと比較しても引けを取らないものですが、残念な結果でした。
私にとってもいい勉強になりましたし、反省すべき点も多々ありましたので、ここにまとめておきたいと思います。

設計者選定競技の概要

  • 競技の名称
  • 白島新駅意匠設計者選定競技

  • 対象施設
  • アストラムライン新駅、JR新駅、連絡通路、周辺施設等

  • 全体スケジュール
  • ・募集要項発表 : 7月15日
    ・参加表明書受付 : 8月5日〜8月12日
    ・第一次選考 : 8月19日
    ・提案書受付 : 10月5日〜10月12日
    ・第二次選考 : 10月31日

  • 第一次選考時の提案事項
  • ・白島新駅に対する基本的な考え方の提案
    ・白島新駅の意匠設計の実施方針等
    ・応募者の代表作品の設計における問題解決方法

  • 第二次選考時の検討事項
  • ・計画地の周辺環境や歴史性に配慮しつつ、市民にとっての新たな「都市の広場」を作り上げるためのデザインの提案
    ・新駅利用者の誰もが安全、快適に移動できるユニバーサルデザインに基づいた交通結節点の整備のための提案
    ・新駅及び周辺エリアにおける集客促進と賑わい空間づくり及び快適な滞留空間づくりの提案
    ・省エネルギーと環境負荷の低減のための提案
    ・ライフサイクルコストの低減のための提案

計画の条件

基本計画案























整備イメージ
  • 考え方
  • ・広島市が作成した資料「白島新駅の整備方針」を参照する。
    ・概算工事費、その他

  • 配慮事項等
  • ・「白島新駅の整備方針」を尊重する。
    ・その他

我々の提案

広島市の作成した「白島新駅の整備方針」の最大の欠点はJR山陽線の上下のプラットホームを連絡する通路が構内にないことです。一度改札口を出て、改めて反対の改札口を経由しなければなりません。
これではどんな立派な駅舎ができても、利用者から不満が噴出します。JR駅構内で上下線の連絡通路を設けることを先決の問題と捉えました。
次に、交通の激しい国道とJR線に囲まれた中央分離帯の中で、どうしたら新たな「都市の広場」を創出できるかを最大の検討課題と位置づけました。 白島新駅
  • 利用者の動線の利便性の確保
  • JR構内での上下線の連絡通路を設け、アストラムラインとJRの改札口の距離を近づける。
    (基本的な考え方)
    ○中央分離帯の地上レベルに上下線の連絡通路を設ける。
    ○JRの駅舎と改札口を1箇所にまとめ、中央分離帯に配置する。
    ○利用者は一度中央分離帯の駅前広場に集まり、アストラムライン及びJRの改札口に流れる動線とする。
    ○アストラムラインとJRの改札口は中央分離帯の地上レベルで最短距離でつなげる。

  • 駅前広場の創出
  • JRの駅舎を中央分離帯に設け、周囲を狭いながらも安全で楽しい駅前広場とする。
    (基本的な考え方)
    ○敷地の条件から「都市の広場」は困難と判断し、公共交通の結節点としての機能の充実を図る。
    ○アストラムライン駅舎の北側のスペースに大屋根をかけ、アストラムラインとJRを一体化する。
    ○国道をまたぐ連絡橋から分離帯に下りたスペースにJR駅舎、売店、喫茶、公衆便所、待合スペース等を配置し、駅前の雰囲気を醸し出す。
    ○中央分離帯の中なので、国道の騒音等を適度に遮断しながらも開放された、安全で落ち着いた空間を創出する。

第二次選考対象者の提案

  • シーラカンス・アンド・アソシエイツの提案
  • 提案1 ・全体的な配置等は「白島新駅の整備方針」を忠実に尊重している。
    ・アストラムラインの駅舎と連絡通路エリアを円筒シェルの屋根で連続させる。
    ・円筒シェルの孔から自然光が注ぎ、連絡通路エリアは半屋外の広場とする。
    *与条件をバランスよく満足させ、プレゼンテーションもよく、最優秀賞を獲得する。

  • ワークヴィジョンズの提案
  • 第一次選考時の提案では、概念的な提案に終始し、具体的な提案がなかったので、なぜ5者に残ったのだろうと感じていた。
    本来、プロポーザル型の設計者選定の第一段階ではこの程度の表現でよいのかもしれないが、一般論だけでは評価に差をつけることが難しい。
    第二次選考時の提案では、中央分離帯の西側半分をオープンスペース(プロムナード)とし、アストラムライン駅舎を東側に細長く配置している。
    オープンスペースに高木を植えて、四季の移ろいを感じさせることをコンセプトにしているが、立地条件に合っているとは思えない。

  • 梓設計の提案
  • 街のスキマに溶け込む「小さな森」をコンセプトにディテールに亘る具体的な提案がなされている。
    全国規模の組織設計事務所だけにプレゼンテーションは優れているが、この地ならではの個性が希薄である。
    CGを駆使した表現力は審査員を魅惑したであろうが、この案を選ばなくて正解と思う。

  • 坂茂建築設計の提案
  • 第一次選考時の提案では、国道を横断する連絡通路とアストラムライン新駅を連続する屋上庭園の広場とする大胆な提案であったが、市からの要請により全く別の案に変更している。
    国道を横断する連絡通路を三角形に渡し、三角ブリッジに囲まれた中央分離帯の地上空間を広場にするという提案である。
    一次提案を高く評価していただけに、期待はずれである。

  • 加藤建築設計事務所の提案
  • 提案2 ・JR下り線駅、連絡橋、連絡通路、アストラムライン新駅改札口を同一レベルで結ぶ。
    ・太田川土手上を歩くような乗り換え道を都市の広場と位置づけ、寄り道カフェ等の溜りの場を配置する。
    ・乗り換え道の上部とアストラムライン新駅を覆う柔らかな曲面形状の木屋根がデザインの特色である。
    次点を獲得する。

第二次選考結果

10月31日に公開プレゼンテーションが開催されました。最終候補者5者が各自の提案を説明し、審査員による質疑応答の後、選考委員会で審査され、下記の通り最優秀者、優秀者が選定されました。
      最優秀者 : 株式会社 シーラカンスアンドアソシエイツ
      優秀者(次点) : 株式会社 加藤建築設計事務所
  • 最優秀者
  • 「シーラカンスアンドアソシエイツ」の提案は、駅および連絡通路を含むすべての空間を、大小の穴の空いたコンクリート製の薄い殻で覆ったもので、交通量の多い国道と駅、広場などの間を緩やかに遮断して、人々にとっての快適な空間を生み出した点に特徴があり、楽しさ と安全性を併せ持つ案として高く評価された。今後、別に選ばれる詳細設計者の協力を得て、この案の良さがいかんなく発揮されて現実のものとなることを大いに期待したい。(選定委員会の審査講評より抜粋)

  • 優秀者(次点)
  • 「加藤建築設計事務所」の提案は、周辺地域や関連する広島市の種々の構想・整備計画などを詳細に調査し、市民の目線に立ってすべての人にとって便利でやさしい空間を作ろうとする点が評価された。全体を木造の屋根で覆い、人工地盤下に多くの自転車置き場を構想する点は大いに注目されたが、同時に自転車での大量のアクセスに対する安全面での懸念もあり、最終的な評価は賛否が相半ばした。(選定委員会の審査講評より抜粋)

雑感

67者が参加表明書を提出していますが、残念なことに地元の設計事務所は第一次選考で全滅しました。敷地の条件や新駅に関連する情報等は地元が一番有利なはずなのに、1者も残らなかったということは全国レベルの競争では歯が立たないのでしょうか。

我々の提案もアイデアとしては良かったと思うのですが、表現力が足りなくて審査員の目に留まらなかったのか、或いは、JRの上下線を中央分離体のエリアで連絡させ、駅舎と改札口を1箇所にまとめて分離帯に配置させるという提案が、市の整備方針と著しく異なるため却下されたのかもしれません。

その点、最優秀者に選ばれた案は素直に整備方針を読み解き、素晴らしい提案をしています。私も妥当な選考結果だと思うし、新駅が完成するのを楽しみにしています。しかし、それでもJRの上下線の連絡は解決すべき問題だし、JRの駅舎を一つにまとめて中央分離帯に配置するという我々の案の方が優れていると思っています。

今回の設計者選定競技は第一段階で設計者を絞り込んで、第二段階で設計の基本構想を選定するというコンペでした。第一段階で簡単な提案書のほかに主要な設計実績等を求められるので、どうしても実績の少ない地元の者が篩いにかけられる傾向が強いのかもしれません。
発注する側としては実績のある者の方が安心できるのもよく理解できますが、もう少し地元の設計事務所の出番も必要ではないだろうかという気がします。地元ももっと力をつけて頑張らなければなりません。

*ちょっとコーヒーブレイク : 『何か

  (2010.12.15 記載)
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