建設業のあらまし


瀧口信二

3月下旬に大学同期と中国還暦記念旅行を終え、4月中旬にその報告をホームページに掲載しました。その後、私のパソコンが壊れ、全てのデータを消失しました。
しばらくはショックで原稿が手につきません。コンピュータのハードウェアが交換され、パソコンが戻ってきました。元のパソコン環境に戻す中、この「建設業のあらまし」を書き上げました。
全産業における建設業の位置づけや建設業の特徴を整理し、これからの課題等を私なりにまとめてみました。

建設業のポジション

  • 経済規模
  • GDPと建設投資グラフ 2007年度の名目GDP(国内総生産)は516兆円です。そのうち建設投資額は52兆円ですから10.1%を占めています。
    建設投資額のピークが1992年の84兆円で、対GDP比が17.4%です。1990年バブル崩壊後も2〜3年は慣性の法則で建設需要が高止まりしていました。
    第一次オイルショックを受けた1978年度は対GDP比の最高値24.6%にも達していました。田中角栄内閣の列島改造ブームに沸いていた頃です。
    欧米でも対GDP比は10%を下回っているので、現在の日本の建設投資額は妥当な数値と言えるかもしれません。

  • 経済効果
  • 桂林 高度経済成長を遂げているときには、建設投資額もその成長率を上回る勢いで伸びていました。ということは建設業も経済を牽引していたことになります。
    何度か不況の時期を迎えますが、その都度公共事業の投資を増やすことで景気を刺激していました。公共事業、特に土木工事は失業者の受け皿としての役割を果たしていました。特別な技術がなくても、元気なら誰でも務まる単純労働が主体だったからです。
    ところがバブル崩壊以降、この種の景気対策はあまり効果を発揮しなくなりました。なぜでしょう?公共事業予算を増やしても、末端の庶民に届くまでの間に大半が消えてしまうからです。流通の仕組みが複雑になりすぎて、途中段階で流失してしまいます。もう少しシンプルにすることが構造改革の狙いの一つです。

  • 建設投資の推移
  • 国土交通省の統計資料に1960年(昭和35年)からのデータ「建設投資の推移」があります。
    1960年は池田内閣が国民所得倍増計画を発表して、戦後の試練を乗り越え、国としての自信と勢いが増した時期です。10%を超える高度経済成長を続け、今の中国の勢いを髣髴させます。
    1972年は田中内閣が誕生し、日本中が列島改造ブームに乗って過剰気味になりますが、翌年の第一次オイルショックで一気に景気の熱が冷めてしまいます。更に1977年の第二次オイルショック以降、建設投資が抑えられ俗にいう「建設冬の時代」が続きます。
    1985年はプラザ合意が結ばれ、円高と大幅な金融緩和により民間の建設投資が拡大し、いわゆる「バブルの時代」を迎えます。
    そのバブルも1990年に崩壊しますが、同年に日米構造協議により1991年から2000年までの10年間に総額430兆円の公共投資が約束されました。それを受けて大型の公共事業が次々と予算化され、要求すれば何でも通るという公共事業バブルが発生します。しかし、一向に景気が上向きません。
    やむなく2001年に小泉内閣が登場し、聖域無き構造改革に取り組むことになります。公共事業予算も毎年カットされ現在に至っています。 建設投資グラフ
















  • 建設業者数と就業者数
  • 建設業就業者数は2006年度で559万人、全産業に占める比率は8.8%です。1987年までは530万人前後で推移していたのが、バブル以降増え始め、はじけてからも増え続け、1997年に685万人のピークとなります。その年を境に年々減少して今に至ります。
    バブル崩壊後も増加したのは、公共事業の投資効果と思われます。景気の上昇にはつながらなかったものの、失業者対策には寄与しました。
    一方、建設業者数は2007年度で52.4万社です。建設冬の時代からバブル崩壊する1990年まで51万社前後の横ばいでしたが、1991年から増え始め、2000年にピークの60.1万社になります。2001年以降は公共事業の削減が徹底され、やっと業者数も減少傾向になります。
    建設投資額が減少しても、業者数は増えていくのが、建設業の特異性です。倒産して1社が消えても、分裂して2社が誕生するということが多々あります。小規模の建設会社を興すことは割合簡単なのかもしれません。
    しかし、建設投資のパイが小さくなれば、それに見合った業者数になるのが道理です。今しばらくは減少傾向が続くものと思います。 建設業者数グラフ















特徴

  • 土木と建築
  • 土木 建設業は大きく土木と建築に分かれます。土木は更に道路・河川・下水道・農林・港湾・空港等々に分類されます。公共事業が大半であり、国の所管や歴史の違いにより積算手法等の考え方に差があります。
    一方、建築は公共と民間で考え方に多少の違いはありますが、民間の方が比率が大きいので、民間主導となります。建築は建築用途ではなく、建築と設備(電気・機械・エレベーター等)に区分されます。
    土木と建築の比率は平均的には4:6ですが、景気がよい時は民間の設備投資が旺盛になり、建築のシェアが膨らみます。逆に景気が悪くなると土木が増加する傾向にあります。2006年度は、土木対建築の比は41.5:58.5となっています。
    建築が減少すると景気対策として土木を増加させてバランスをとっていましたが、最近は公共事業の削減により変化が生じています。

  • 公共と民間
  • 建築 前述のとおり、公共は土木主体で民間は建築主体です。公共工事は会計法等の契約上の制約が多く、公平性・競争性・透明性が求められます。
    その点、民間の方は自由度がありますが、民民の取引には前近代的な慣習も多く残っています。官と民との契約も政官業の関係等、クリアしなければならない問題が横たわっています。
    最近は公共工事における入札・契約制度の改革が進み、多様な発注方式が導入されています。また、PFIのように民間の活力を積極的に取り入れていこうという試みもなされています。

  • 元請と下請
  • 元請下請 建設業者には元請として工事一式を請け負うことができる業者と元請の下で工事の一部を下請けする業者がいます。
    一つの工事は元請の1社と複数の下請で成り立っています。元請は工事の一部を直営で施工するとともに下請の調整をしながら全体をコントロールします。下請は任された範囲の工事を責任を持って施工します。
    元請はゼネコンと呼ばれ、下請はサブコン又は専門工事業者と呼ばれます。元請にも大手スーパーから零細な業者まであり、元請をしている業者が別の工事では下請をしていることがよくあります。小さい業者が元請となって、大きい業者がその下請けをしているケースも時々見受けます。
    建設業の世界では一般のビジネスではありえないようなことが時たま起きることがあります。

  • 重層構造
  • 重層構造 発注者から工事一式を請け負う元請とその工事の一部を担当する下請で実際に施工されていれば問題はありません。本来の姿です。
    しかし、現実には下請から2次下請(孫請)、3次下請へと仕事が丸投げされることがあります。下に流すときにピンハネして、仕事をせずに利益を吸い上げる仕組みです。
    1次下請の頭金額が決まっているので、下に行けば行くほど、実際に仕事をしている職人の賃金は蝕まれます。
    下請の業者も拒否できるだけの余裕があればよいのですが、どんな条件でも仕事をしなければ喰っていけない状況に追い込まれているとしたら、これは社会問題です。
    建設業の健全化は、重層下請の構造を解消するところから始まります。

建設業を取り巻く環境

  • 建設投資の減少
  • 民間の投資は景気の動向により、増減を繰り返すと思われるが、財政再建下においては公共投資の増加は望めません。
    わが国の人口もこれからは減少の一途です。ということは建設需要の方も縮小していくことが明らかです。現在、海外進出が伸びていますが、これも程々にしなければ海外との摩擦を引き起こします。
    トータルの建設投資額に見合った建設業者数と就業者数に軟着陸させる施策を講じる必要があります。

  • 少子高齢化社会
  • 現在の建設就業者が高齢化して離職し、若年の就業希望者が減少すれば、景気に関係なく建設就業者の絶対数が不足してきます。現在の減少傾向もこの自然減かもしれません。
    建設現場の3K(危険・汚い・きつい)が嫌われ、安い賃金となれば、若い人から見向きもされなくなります。外国人を雇用すればという話が現実味を帯びてきます。
    建設は本来未来志向の仕事です。ダーティなイメージを払拭して、若者が夢の持てる建設業にしていかなければ、明日が見えてきません。

  • グローバル化
  • 規制が緩和し、情報が世界をかけめぐれば、あらゆる世界で国際化が進みます。外国から物や人が流入し、日本からも海外に打って出ます。トラブルを少なくするためには、国際ルールを整備して守っていかなければいけません。
    遅れ気味だった建設業の世界にも否応無く対応が迫られます。国内で小さく固まるのではなく、建設投資のパイも人も縮小していくなか、世界戦略を立てる時期に来ているのではないでしょうか。

  • 地球環境問題
  • 地球の温暖化が進み、今のペースでCO2が増加すると人類滅亡の日が確実に来るといいます。頭ではわかっても、なかなか行動が伴わないのが実情です。
    既に循環型社会の形成を推進するための法律も整備されています。廃棄物の適正処理、リサイクルの推進、グリーン調達、環境配慮の契約等々。全産業における建設産業の占めるCO2の排出量は1/3に達しています。
    建設界も環境への意識が高まり、それぞれの分野で先進的な取り組みがなされています。これからは現場の末端まで浸透させていくことが求められています。

雑感

建設業を大雑把に捉えてみましたが、談合やダンピングや偽装等、根の深い問題を抱えています。
マスコミに登場するのは、これらマイナス・イメージのものがほとんどで、スキャンダラスに報道されます。国民は不信感を持って、疑惑の目で建設界を見てしまいます。
建設は生活基盤の整備を担っています。社会に無くてはならないものであり、多くの国民から感謝されています。建設業のプラス・イメージをテレビ、映画、小説、インターネット等、文化・教育面から情報発信していくことが必要です。
そのためには将来のあるべき姿(ビジョン)が明確でなければなりません。行政や各団体でビジョンが作成されていますが、国民に共有されていません。胸を張って、建設業が語られる環境を整えていくことが、私どもの役割ではないでしょうか。

(注:図ー2、3は日本建設業団体連合会「建設業ハンドブック2007」より転載)


  (2008.5.15 記載)   
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