あらすじ
主人公ジュードはリバプールの造船会社の工員として働いていました。第二次世界大戦が終了し、自分が生まれる前に、米兵だった父親はアメリカに帰国しました。ジュードは父親を確認するためアメリカに渡ります。そこでマックスと親しくなり、美しい妹ルーシーと出会います。中流階級の保守的な家庭に不満を持つマックスはジュードを連れて憧れのニューヨークに飛び出します。女性歌手サディの家に同居し、ギタリストのジョジョも加わります。
時はベトナム戦争が泥沼化し始めた頃です。ジュードとルーシーは恋に落ちますが、マックスの入隊を機にルーシーは反戦運動にのめり込みます。そして二人の恋は破局を迎えます。同じような運命をサディとジョジョも歩みます。
不法滞在が露見したジュードはイギリスに強制送還されます。悶々とした毎日を送っていたが、マックスが歌う「ヘイ・ジュード」に励まされ、ルーシーに会うため再度渡米します。サディとジョジョのビルの屋上ライブにみんなが集まることにしますが、ルーシーだけが間に合いません。ジュードが歌う「愛こそはすべて」に、向かいのビルの屋上からルーシーが応えます。
1960年代のベトナム戦争を背景にした青春のラブストーリー・ミュージカルです。
主な登場人物
この映画の登場人物はみんなビートルズの曲の中に出てくる人物です。・ジュード・・・母親一人で育てられた労働者階級の青年。絵が得意でニューヨークでは広告デザインのアルバイトをする。
・ルーシー・・・恋人をベトナム戦争で亡くし、兄マックスまで兵隊に採られ、反戦平和運動に駆り立てられていく。
・マックス・・・裕福な家庭の束縛に嫌気がさし、自由を求めて都会に飛び出す。が、ベトナム戦争が彼の人生を狂わせる。
・セディ・・・メジャーを目指す女性ロックシンガー。家主でもあり、主な登場人物の住処を提供している。
・ジョジョ・・・幼い弟を亡くし、故郷を捨てニューヨークに出てきたギタリスト。セディのバンドグループに入り、恋仲になるが、セディがメンバーから離れていく。
ストーリー
- イントロ
- 渡米前
- ルーシーとの出会い
- ルーシーの恋人が戦死
- ルーシーとの恋
- マックス徴兵検査合格
- マジカル・ミステリー・ツアー
- 二組の恋の破局
- ジュード強制送還
- マックス負傷帰還
- ハッピーエンド
・歌詞「誰か僕の話を聞いてくれない?心に住みついた女の子の話さ。・・・」
・ジュードが物悲しげにアカペラで歌いあげ、ストーリーをスタートさせる。
・一方、ルーシーにも恋人がおり、ベトナム戦争に徴兵されることになる。
・楽しいデート「ホールド・ミー・タイト」を終え、別れの時「オール・マイ・ラビング」がやって来る。
・リバプールの労働者階級の暗さとアメリカの上流社会の明るさを対照的に演出。
・マックスは帰省時にジュードを連れて帰る。家族の晩餐に同席したジュードはマックスと父親の口論にも家庭の温かみを感じるが、マックスは家庭の束縛から逃れようとする。
・ジュードはマックスの妹ルーシーと出会う。二人にはそれぞれ恋人がいるが、互いに好意を抱く。3人がボーリングを楽しむシーンに「アイブ・ジャスト・シーン・ア・フェイス(夢の人)」。
・マックスはジュードと一緒にニューヨークに出る。ジュードはビザが切れ、不法滞在者となる。
・追悼歌「レット・イット・ビー」が流れるなか、それぞれの葬儀が粛々と執り行われる。黒人女性ボーカルと聖歌隊のゴスペル調のソウルフルな歌唱は圧巻である。
・ジョジョはニューヨークへ向かう。ルーシーも兄の召集令状を持って同じくニューヨークへ。
・恋人を亡くしたルーシーを慰めるジュードだが、二人は恋に落ちる。ルーシーが語るように歌う「イフ・アイ・フェル(恋に落ちたら)」が切なく迫る。
・身体検査を受けて即合格。「シーズ・ソー・ヘビー」を歌いながら、戦地で大きな自由の女神像を担いで歩くシーンは、ベトナム国民の自由解放を旗印に戦っているベトナム戦争を想起させる。
・兄の入隊に不安が募るルーシーは街頭での反戦演説に足を止める。
・サイケ調の映像の中でボノが歌う「アイ・アム・ザ・ウォラス」。バスに乗って見知らぬ世界へ。
・空想のサーカス世界を描く「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」。
・「地球が丸いから・・・」とアカペラで歌い始める「ビコーズ」。水中での愛の表現をポップアート風に描写した後、ベトナムの戦争シーンに。マックスの入隊前の気晴らしは終わり、現実の世界へ。
・ルーシーの職場まで押しかけ、「レボリューション」を歌いながら反戦活動に毒づくジュード。ルーシーは嫌気がさし、部屋を飛び出してしまう。
・一方、セディにもプロからソロデビューのスカウトがあり、ジョジョと仲たがいをしてしまう。喧嘩しながら前半をセディが、後半をジョジョが歌う「オー・ダーリン」も熱がこもる。
・傷ついたジュードとジョジョ。ジョジョがギターの弾き語りで歌う「ワイル・マイ・ギター・ジェントリー・リープス」にジュードも慰められる。
・警察による過激な反戦活動拠点の手入れでルーシー達が逮捕される。ジュードも騒乱に巻き込まれ、刑務所に収監される。
・父親が面会に現れ、暴動とは無縁であることが証明されたが、不法滞在が露見してイギリスに強制送還される。
・精神的なダメージが大きく、情緒不安定でトラウマと闘う状態を歌「ハッピネス・イズ・ア・ワーム・ガン」で表す。
・退院して妹ルーシーと共に静養する。「ブラック・バード」の歌で心が癒される。
・マックスの出迎えを受け、その足でコンサートの場所に急ぐ。サディとジョジョは自分達の会社「ストロベリー・レコード」が入居するビルの屋上でライブ演奏をしている。ビートルズが最後に行った屋上ライブを模している。
・「ドント・レット・ミー・ダウン」を歌い上げた時、警官が制止に入って演奏を取り止める。一人残ったジュードはアカペラで「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ(愛こそはすべて)」を歌い始める。
・時間に間に合わず、引き返していたルーシーもジュードの声に呼び戻される。玄関前に立ち塞がる警官達に追い払われ、向かいのビルの屋上に上がる。ジュードの愛の賛歌に応えてハッピー・エンド。マックスが叫ぶ「シー・ラブズ・ユー・イェー・イェー・イェー」が印象に残る。
印象に残る楽曲
- レット・イット・ビー
- アイ・アム・ザ・ウォラス
- オー・ダーリン
- ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウイズ・ダイアモンド
ベトナムで戦死したルーシーの恋人と暴動に巻き込まれたジョジョの弟、二つの葬儀を対照的に見せる。悲しみを受け入れる歌「レット・イット・ビー」を葬送曲として用いている。いか様なアレンジにも対応できるのは、ビートルズの楽曲のすばらしさか。
U2のボノもドクター・ロバートになりきって、この曲を歌っている。U2のことはよく知らないが、ビートルズの影響を受け、敬愛しているという話を聞いたことがある。
「オー・ダーリン」のライブ演奏の中で、激しい口論の掛け合いが歌になっている。前半をサディが歌い、ジョジョのギターの電源を切って退場。その後をジョジョが歌い上げる。二人のブルース調の歌唱は迫真の演技である。
「ルーシーはダイヤをつけて空を舞う」というタイトル通り、画面は空想の世界を描いている。本編の「ビコーズ」と同じく水中撮影したものをポップアート感覚で表現している。特に水の揺らぎがよい。
雑感
この映画の監督ジュリー・ティモアは1952年生まれのアメリカ女性です。ディズニーのアニメ作品をミュージカルにした「ライオンキング」の演出とデザインを手がけています。ブロードウェイで上演されたヒット作品です。
今回は、初めにビートルズの歌があり、それに合うストーリーを組み立てて仕上がった映画用のミュージカル作品です。このアイデアが実現できるのも、監督が生え抜きのビートルマニアだったからに違いありません。映画のなかにビートルズ関連のネタが随所に盛り込まれています。
俳優の歌がうまいのには感心しました。5人のメインキャストのうち歌手はサディ役とジョジョ役のみです。二人はライブでの演奏シーンに実力を発揮します。ジュード、ルーシー、マックスの3人は語るように歌い、歌がせりふになっています。口パクではなく演技しながら歌っているそうで、俳優たる所以です。他にボノやジョー・コッカー等の歌手が出演しています。
ビートルズの歌からインスピレーションを得て、新しい分野が開拓されるのはシルク・ドゥ・ソレイユのショー「LOVE」と同じです。ソレイユはビートルズの楽曲を使って彼らのパフォーマンスを完成させました。ティモアはミュージカル映画です。年内にはビートルズのゲームソフト「ザ・ビートルズ・ロックバンド」が発売されるという話があります。この種の新企画はまだ続きそうです。
映画の題名をなぜ「アクロス・ザ・ユニバース」にしたのであろう?この曲は、ルーシーが部屋を飛び出した後、ジュードが空しさで彷徨っている場面に使われています。直後にルーシーが警察に連行され、ジュードも巻き込まれてイギリスに強制送還されます。二人の糸が完全に切れてしまいます。ストリー展開の一番大きな節目の曲としてタイトルに採用されたものと思います。監督も大好きな曲の一つだったのでしょう。
時代背景を1960年代のベトナム戦争に設定したのは、ビートルズの現役世代とダブルからでしょうか。2000年代のイラク戦争との対比も考えられますが、戦争シーンを極力押さえているところを見ると政治的なメッセージは少なそうです。ただ、イラク戦争に対するアメリカ国民の今の対応でいいの?という監督の意図は見え隠れしています。
当時のアメリカのフラワーパワー・ドラッグ文化の風潮や反戦運動の激化に影響されて、日本にも1970年前後の学生運動や全共闘の時代が押し寄せてきました。団塊世代の私達が若かった頃を懐かしめる映画です。そばにビートルズが寄り添っていました。
(2009.5.15 記載)